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話を終えたリーゼルはすぐに馬車から下りると、一緒に並走させていた兵に預けていた馬に乗って、前を走る馬車へと戻っていき、馬車はまたセリアーナと二人になった。
「セリア様」
「なに?」
リーゼルの話を聞いても、セリアーナは特に動じていない様子だ。
相手がどういう風に仕掛けてくるかって、何となくだが読めてきたのはいい事だと思うんだが、それでもあくまで何となく程度だし、街中での襲撃がほぼ確実ってなったのは、朗報とは言えないよな?
「どうするの?」
「どうするって……街での事? 特別に何か変わった事をするつもりは無いわ」
「む?」
「わかっていることは、街の兵に繋がっている者がいるって事だけでしょう? 私たちが詰所や宿に押し込められるとは思わないし、あるとしたら代官屋敷だけれど……流石にそこに出入りする者が襲ってこないでしょう。その気なら、私たちがこちらに到着した時に手を出していたでしょうからね」
俺たちがこちらに到着した際は、船から降りるとすぐに迎えが来たが、もし代官に近い立場の人間が賊と繋がっていたのなら、呼び留めて護衛と分断させたりは出来たかもしれないもんな。
「まぁ……それは確かに。んじゃ、成り行きに任せるの?」
「そうなるわね。相手の狙いは、私たちを一度一か所に集めて、その間に自分たちも襲撃の戦力を立て直すことじゃないかしら? 今はバラバラでしょう?」
そう言って、馬車の前後に順番に手を向けた。
俺たちの前方を進む連中は、賊とはいえ人を殺すレベルで協力しているし、それくらいやってもおかしくはないが、早々に投降を決め込んでいた、後方のやる気無い組もまだまだ仕掛けてくる可能性があるのか。
「いつも通りよ。ウチの兵の腕はお前も理解しているでしょう? それに、王都の様に多数の住民が暮らす大都市では、活用させられなかったけれど、たとえ誘い込まれたとしても、私の加護がある以上、周りにいる人間が限定されればされる程、こちらも判断に迷うことなく動きやすくなるわ」
「なるほど……」
セリアーナが言うように、王都だと色んな場所からやって来る者が多かったし、領地の様に彼女に従う者ばかりじゃない。
行動に移さなくても、彼女に敵意を持っている者もいただろうし、加護に反応する者をそのまま敵として扱うってわけにはいかなかったが、襲ってくるってわかっている状況なら、遠慮する必要は無いもんな。
「ほぅほぅ……」と頷いていると、セリアーナは無言で俺をじろじろと眺めてきた。
「どうかした?」
「今のうちに奥でお前の恰好をどうにかさせようかとも思ったけれど……。街中だしそのままでも構わないかしら?」
恰好をどうにかってする事は、【隠れ家】に置いている恩恵品を取って来るかどうかって事なんだろう。
確かに全部使えば俺の戦闘力は上がるだろうけれど……どうしたもんか。
「む……そうだね。うーん……このままでいいかな? オレたちだけになるって事は無さそうでしょう?」
少々迷いはしたが、このままでいいだろう。
単純な戦闘力って意味なら、アレコレ身に着けたら向上するのは間違いないが、果たして全部使うかって話だよな。
それに、あまり選択肢が増え過ぎても、いざ実戦で使いこなす事が出来るかどうか……。
むしろ、どれをチョイスしたらいいかでアタフタしている間に、相手に攻撃されて、それを躱す事に必死になりそうだ。
先の戦闘の様に、シンプルな戦い方にした方が迷ったりせずに済むだろう。
そもそも、人間相手にどう使うんだって代物も多いし、【緋蜂の針】と、まだ出番は無いが【影の剣】だけでも十分過ぎるくらい強力だしな!
セリアーナはそれを聞くと「そう」と小さく頷いた。
「なら、結局は相手の出方次第だし、この話はここまでね。これ以上は意味が無いでしょう」
「はーい」
俺の返事を聞いたセリアーナは、窓の外へと視線を向けた。
「街まで後……2時間もないかしら? 私は索敵に戻るから、お前はあまり気を張り過ぎないように、今から準備しておきなさい」
「はいはい……」
返事をしたときには、セリアーナは既に目を瞑っていた。
それじゃー、俺は彼女の邪魔をしないように、脳内でシミュレーションでもしておくかな。
俺の戦闘経験は大半が魔物だし、対人なんて先程の戦闘くらいだが……やらないよりはマシだよな!
ってことで、俺もセリアーナに倣って目を閉じて、頭の中で戦闘のイメージを固めていった。
セラ・加護・【隠れ家】+1【祈り】【ミラの祝福】【風の衣】
恩恵品・【浮き玉】+1【影の剣】+1【緋蜂の針】【妖精の瞳】【竜の肺】【琥珀の剣】【ダンレムの糸】【蛇の尾】【足環】【琥珀の盾】【紫の羽】【赤の剣】【猿の腕】・3枚
セリアーナ・【範囲識別】・【】・0枚
エレナ・【】・【緑の牙】【琥珀の剣】・4枚
アレク・【強撃】・【赤の盾】【猛き角笛】・10枚




