08
ふよふよと【浮き玉】に乗っかり夜空を漂うことしばし、潜んでいた教会から大分離れた。
周りの建物が精々3階程度だからか、教会が大分目立つ。
礼拝堂でいいんだろうか?10階位の高さで、同じ敷地に隣接する建物もデカい。
遠目からでもわかるが、屋根の先端にYの形をした物が付けられている。
孤児院にもあったし、もしかしたら十字架の様にあれがシンボルなのかもしれない。
少し気になるのは、規模こそデカいが街の外れにあること。
教会とか街の中心部にあるって思っていたけど…。
領主と仲が悪いのか、それともこの街だけなのか…。
機会があれば調べるのもいいかもしれんね。
それにしてもこの街。
かなりデカい。
正方形ってわけではないから正確にはわからないが、パッと見で2キロ四方位ありそうだ。
そして壁がグルっと街を囲んでいる。
日本ではまずお目にかかれなかった光景だ。
街の中心の方は明かりが見える。
人の姿もちらほらとあるが、あの辺は繁華街か何かかな?
ちょっと気になるが、人目に付くかもしれないし止めておこう。
となると…
教会の丁度反対側に位置し、街の中なのにさらに壁で囲まれている一角がある。
他はどこもある程度密集しているが、そこはどの家も大きいうえ庭も広い。
家というより、屋敷だな。
何かで見たが、お金持ちの家は上にではなく横に大きいとか。
正にそれだ。
通りを明かりを持って巡回している兵士がいるし、セレブな気配がする。
そっちに行ってみよう。
てか【浮き玉】スゲぇな!
スイスイ行けるからついつい高度を上げてしまったんだが、30メートルかもっと高いところにいるんだけど…。
10階くらいの高さだよな…?これ。
速度も原付くらいは出てる。
高度も速度ももっと行けそうな気はするけど…止めておこう。
大丈夫だと思うけど、落ちたら死ぬ。
【浮き玉】の予想以上のポテンシャルに少々ビビりつつ、数分でそのエリアの上空に辿り着いた。
壁の上に兵士がいて、越えるときは少し緊張したが幸い上を見ていなくて助かった。
というよりも、全く上を警戒していなかった。
壁上だけでなく、街中の兵士もそうだ。
もしかしたら空を飛ぶ人間はいないのかもしれない。
いや、普通いないけれども…。
これはもう大怪盗をやれって事なんだろうか…?
さて、空が無警戒なのを良い事に一通り見回ったところ、このデカい屋敷が立ち並ぶ一角で、一際大きい屋敷を発見した。
目抜き通りの終点にあり、高い塀が周囲を囲んでいる。
門前はもちろん、裏も警備の兵がしっかりついている。
外だけじゃない。
明かりを持った人間が庭や、屋敷の中を見回っている。
発見というには少し語弊があったかもしれない。
めっちゃ主張しとる。
この厳重具合…、領主の館かな?
◇
領主の館はデカかった。
ちょっとした、小学校くらいの広さだろうか?もちろん校庭も含めてだ。
まず屋敷自体も大きいのだが、それ以外にも、客人用だろうか?何棟か建っている。
他に、倉庫らしき建物に、兵士の詰め所、訓練所、使用人の住居。
小さいがYの字が屋根についているし、礼拝所らしきものもある。
他にも何かよくわからんのが色々と…。
そして昼夜問わず、庭も館の外も警備兵が犬とセットで見回りをしている。
ただ、犬も兵士も【隠れ家】を見抜く事は出来なかった。
【浮き玉】に乗っていたから足跡を始め痕跡を残していないからってのもあるだろうが、夜コソコソ敷地内をうろついていたが全く気付かれなかった。
流石に姿を見られたらバレるだろうから、そこは気を付けていたし問題無い。
問題無いはずなんだよなぁ…。
『お前、いい加減諦めて出てきなさい』
モニター越しに15~6歳くらいの偉そうな姉ちゃんの声が昨日に続いて今日も聞こえてくる。