転生したら奴隷少女の足枷だった
――俺は死んだ。
よくある話だ、俺はトラックに轢かれて死んだんだ。
生きていた時の記憶は覚えているような覚えていないような……。
正直、記憶は曖昧で生きていた時の名前さえぼやけてて思い出せない。
本当に死んだのかって?
それは今の俺を見てくれれば分かると思う。
フワフワとまでは言えないが、触ればそこそこ気持ちよさそうな耳を生やした獣少女……のスレンダーな、というかガリガリの生足に付けられたアンクレット……そこからスラリと伸びた鎖に繋がれた……鈍く輝く流線形を超えたまん丸ボディ!
それが今の俺だ。
つまり俺は獣少女の足に繋がれた足枷に転生したみたいだ。
獣少女とか言ってるけど、ようはただの奴隷。
トラックに轢かれて転生するのはよくある事らしいが、まさか足枷に、無機物に転生するとはな。
今の自分が恵まれていないのは前世に悪い行いをしたからだとか言われるが、いったい俺は前世でどんな人間だったんだろう。
こんな無機物に転生するくらいだ、相当な悪だったんだろうな。
今の人生が恵まれてないと思っている奴も前世の自分を恨むのはやめた方がいい。
生き物、それも人間に生まれたんだから、それだけで前世の自分に感謝するべきだ。
前世の自分を恨んでいいのは無機物に生まれ変わった俺くらいだ。
どうでもいい話をしてしまったな。
今の俺が足枷になって何をしているのかを話そう。
と思ったが、その前に俺が足枷になった時に授かった能力について話そう。
その能力は重さと硬さを自由に変化させられるというものだ。
重さでいえば50g~5000kgまでを自由に変化させられるし、硬さはプラスチックからダイヤモンドの一千倍ぐらいの硬さまでだ。
ダイヤモンドの一千倍っていうのは奴隷商人が言っていた事なので詳細はよく分からない、ただ滅茶苦茶硬いっていうのだけは確かだ。
能力の説明はこれで終わりだ。さっき言いかけた俺が何をしているかについて話そう。
基本的には何もしない。だって足枷だもん。
日々やっている事といえば、奴隷ちゃんがトイレや寝床に入ったりする時に極力負担のないよう軽くしてやるくらいだ。
それ以外は何もしていないが、もう一つ仕事が――。
「こちらの獣耳の少女はどうでしょうかな?」
奴隷商人が客を連れてやって来たようだ。
商人の横には不細工で気持ちの悪いオヤジが立っていた。これは絶対にロリコンだな。
オヤジは鼻息荒く奴隷ちゃんの体を視姦している。
こんな奴に奴隷ちゃんをやるわけにはいかない。
俺のもう一つの仕事、それは奴隷ちゃんをこういう私利私欲の人間から守る事だ。
そこで俺の能力が役に立つ。
重さと硬さをおもいっきり強くする。そうすると。
「なんだこの足枷は! 重いし硬いし全然外れないじゃないか!」
こうなる。
これで今日も奴隷ちゃんは悪人から守られたのだった。めでたしめでたし。
数日後、今度は黒いローブを纏った、魔法使いらしき人物が奴隷商人に連れられてやって来た。
「こちらの獣耳の少女はどうでしょうかな? お安くしますよ……ただこいつの足枷には呪いがかかっておりまして、どうやっても外れないんです」
魔法使いは自分の魔法に自信があるのだろう。呪いと聞いてニヤリと笑った。
魔法使いが呪いを解くための呪文を唱え始める。
無駄な事を。これは呪いなんかじゃない、俺の意思でやってる事だ。
だから魔法なんかじゃ俺は外せない。
魔法使いは何度か違う魔法を唱えたが結果は同じ。
奴隷商人に捨て台詞を吐いて帰っていった。
これで今日も奴隷ちゃんは悪人から守られたのだった。めでたしめでたし。
数日後、またも客がやって来た。
しかし、よくまあ次から次に客が来るもんだな。
この世界は変態ばっかりか。
「おい、奴隷商! こいつを売ってくれ!」
客の男が商人を呼ぶ。
いつもなら商人が客を連れてくるのだが、おかしいな。
それにこの客の容姿。こんな場所は到底似合わない好青年。
「ああ、そいつですか……。売り物は売り物なんですが、こいつの足枷には呪いがかかっていまして。どんな手を使っても外せないんです」
「ほう、呪いか……。だが俺はこいつが欲しい。いくらだ?」
「もういくらでもいいんで引き取ってください。こっちも困っているんです……」
「では金貨一枚でどうだ?」
「金貨一枚!? こんなみすぼらし……いえ……流石お客様、お目が高い」
「よし交渉成立だな。今後俺がこいつをどうしようが一切の口出しは無しだ。いいな」
「ええ、ええ。それはどうぞご自由に。煮るなり焼くなり好きに使ってやてください」
「ああ、そうさせてもらう」
こんな好青年が奴隷買いとは世も末だな。
さて、今日も一仕事するか……。
俺が力を使おうとすると青年は俺をひょいと持ち上げ、いとも簡単に少女から俺を外した。
なぜ俺の能力が通用しないんだ。
「さあ、君もおいで」
このままでは奴隷ちゃんが連れていかれてしまう。
しかし既に俺は少女から外されていて、もう何も出来ない……。
考えていると……徐々に徐々に……意識が遠のいていった…………。
――あれから数年後。
少女は青年の寵愛を受け立派な大人になり奴隷として売られていた面影はない。
青年は魔王を倒し勇者と呼ばれる存在になっていた。
俺はというと、青年によりちょっとした加工を施され、重さ硬さを自在に変化する最強の武器『勇者のモーニングスター』として魔王退治に大きく貢献し後世まで語り継がれる事になる。
めでたしめでたし。
最後まで読んでいただき、ありがとうございました。