エピソード3 『蠢き出した闇』
―けて
「え?」
―すけて
この声はどこから…頭の中へ直接…?
―たすけて
「さぁ!ではみなさん心の準備は良いでしょうか!」
試合前の最終確認だ。急に現実に引き戻されるような感覚によって、先程の声が幻聴に感じる。
しかし俺は確かに聞いた。俺に助けを求める声を。
一体何だったのだろう。確かめようのない事象は、ほとんど幻聴じゃなかろうか。
そうだ。俺は今緊張しているのか。
「あれ、ひょろ選手の様子がおかしいですね。どう思いますか?ろりへにょさん。」
「そうですねぇ…ん…。様子がおかしいですねぇ…。」
実況席から自分への注意を向けられ少し体がこわばる。
観客はプレイヤーたちのゲームを楽しむが、それをより一層沸き立たせるもの。それが実況者による実況と解説だ。
すれば当然、実況が注意を向ければ観客もそれにつられて注意を向ける。
ゆうたは少し実況席を恨むように睨んだ。
なんでもこの二人は近年このRTSだけでなく様々なゲームの大会に呼ばれるようになった実況者らしい。
役割的には蜂ブドウ氏がゲームの様子をより観客をわかせるような実況をし、それに補足をするように観客へよりわかりやすい解説をするのがこのろりへにょ氏だ。
その時この二人の背後に何かが現れるのを見た。
「今回も、頼んだよ。蜂ブドウくん。ろりへにょくん。」
低い、ねっとりとした声質。歳は中年だろうか小太りの背広をした男性がこの二人の背後でニタァと笑う。
もちろん観客の注意は司会に向けられこの男は見えない。あくまでこの二人に対し発した言葉であろう。
俺には会話の内容はさっぱり理解できなかったがこの男のその全身柄にじみ出る威圧を感じ取ることはできた。
―この人に期待はずれな言葉を返してはならない。
そんなオーラを感じ取った二人は体を萎縮させ恐る恐る返答する。
「…かしこまりました。おまかせを…。」
「はいぃ…。誠心誠意務めさせていただきますぅ…。有村様。」
この時。このゲームは闇のゲームへと姿を変える運命をたどっていたことなど、誰に想像ができたであろうか。
* * * * * *
司会の銀成氏の選手紹介を終え、選手一同は中央に円形に並べられた椅子に座る。
俗に言う『ゲーミングチェア』と呼ばれるようなものだ。
選手たちがお互いに背を向けるような配置で、これはイス取りゲームを連想させる。
そしてその椅子にはVRのヘッドセットが置かれていた。
ヘッドセット、こんなに重かったっけ?
ゆうたは手慣れないヘッドセットを頭上に掲げ静止する。
他の選手もそれに習うかのようにゆうたと同じポーズをとった。
「それでは選手の皆さん。ヘッドセットを装着してください。」
司会に言われるがままに選手達はヘッドセットを装着してゆく。
ゆうたも装着した―その時違和感が体を襲った。
ガチッ
ガチッガチッガチッ
通常、ヘッドセットからは聞こえるはずもない音が頭に鳴り響く。
なんだこれ…頭に完全にロックされている…?
大会の参加書にもこんな事は書いてなかったが、大会の運営が決めたのだろうか。
確かに、ゲーム中に外れては多くのミスを生むし、観客もそんなゲーム外でのハプニングを望まないだろう。
仕方がないか。と一瞥しそのヘッドセットに慣れることにした。
しばらくすると、視界を覆っていた闇が晴れてゆく。
そこでまたもや違和感。ゲームをするために必要なコントローラーがない。
今配っているのか…?
周りが見えなくなった以上、確かめるすべもないし不安は時間とともに募る。
―自分だけミスで渡されず他でもうゲームは始まってるんじゃなかろうか―
当然6人しか参加者が居ない大会でこんな事はありえないがとりあえず待つことにした。
しかしコントローラーが渡されるよりも先にゲームが起動してしまった。
急がば回れだ。そんな事を考えていたゆうたは目の前に広がる光景に息を呑んだ。
「ここ…どこだ…?ゲームじゃない…?」




