エピソード27 『ボルボ』
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「見て見て有村さん、なんて綺麗な青空でしょう!」
艷やかな桃色の髪を風に任せてなびかせ、草原を素足でかけていくかの女性が、半年前には無関心で機械的な、人造人間であったことなど誰が知り得ようか。
いや、目の前で微笑ましくそれを見守る男――有村こそが知り得ている、否。彼が望んで作った結果だ。
人間らしい感情を獲得したボルボはまさしく鳥のように舞っている。
それは付け焼き刃の知識から再現されたものではなく、彼女自身の心の喜びという感情に偽りはない。
「あまりはしゃいで、怪我でもするなよ。お前は大事なんだから。」
「それは"器"として――?それとも、女性として――?」
しゃがみ込み至近距離でいたずらっぽく上目遣いを使い、有村を見上げたボルボは「ふふふ」と言って質問する。
「それは―――......これ、からかうんじゃない。」
と一瞥されると、ボルボは草原に座っている有村の横にふわっと音が聞こえそうな優雅な佇まいで座る。
「私はどちらにせよ、感謝しているんですよ。有村さんが、あなたが世界を教えてくれた。私に、心を教えてくれた。
あなたは他の研究員とは違うふるまいで私に接してくれて、嬉しいんです。」
涼しい風が風やら華やらを運ぶ様子と、その隣にいるボルボに思わず目が奪われる。
かなり年食ってしまったが有村はこれでも研究一筋であまり恋愛沙汰に興味はなかった――故に、初めての感覚に戸惑いながらも、彼女には彼女の役目を自覚してもわらなければならない、と釘を刺す。
「いいかい。君は僕たちの研究においてキーとなる存在だ。君が今の君であるように願ったのはあくまで――」
「怖いんですね。」
「...!?」
ボルボの伸ばした人差し指に話を遮られ、しどろもどろしてしまう。
それに満足したのか、彼女は微笑んで続けた。
「人を知るのが。人に触れるのが。
あなたと半年居て、あなたの事はだいぶ理解できたつもりなんですよ?
あなたは極度に私を避けています。いいえ、恐れている――」
間をおいて真剣な眼差しに変わった、ような気がした。
ゴクリと生唾を飲んでしまう。
自分が暴かれそうになる恐怖からか、あるいは...
「あなたはあなたが思っている以上に、私を大切にしてくれている。」
「...それはそうだ、君は研究に欠かせない"器"なんだから。」
「いいえ、わかります。だって有村さん、ずっと私を目で追うんですもの。狩人みたいに。」
「バカよせ、私は...お前なんか...」
「では"器"は"器"と今でも割り切れると言いきれますか?」
「それは――」
数秒という短い間だが思考し、間が空いてしまう。
それはもうほとんど否定の無言で、有村も半年前に彼女を見たときからか、あるいは育てているときからか、自覚はないが"器"だからという理由だけで彼女を大切にしているという自信はなかった。
その時間に満足したのか、ボルボは立ち上がって有村の方へ向かい、その言葉をありったけの笑顔で伝えた。
「私は、有村さん――あなたのことが
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