エピソード24 『ぶどう』
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「夏も終わりです。」
目下で繰り広げられる銃撃戦と、意味のない殺戮。
神が7日間でこの世界を作ったのなら、この世界の終焉にはどのくらいの時間がかかるのだろう。
"そんなこと"とは全く縁遠いような言葉を、ぶどう氏がポツリと呟いた。
「...?」
震えるろりへにょ氏はもう残弾がない拳銃を握りしめて涙目でぶどう氏に問いかける。
「この世界は......」
資料を狙ってか、襲撃者たちがこちらに詰め寄るための采配を促す指揮官の無線が聞こえ、さらに絶望が増す。
実況解説を務めると知ったとき、覚悟していたはずだった。
有村と名乗る男から提示された条件なんて、もはやどうでも良かった。
俺にはこの世界は適していない――なんて自暴自棄に考えていたんだから。
しかし蓋を開けてみればこの惨劇だ。血の匂いも、立ち込める硝煙の香りも全てが恐怖に塗り替わるのを感じた。
怖い。
怖い。
怖い。
ただひたすらに眼前に迫る死を迎えようとする。死神が自分の部屋のドアまで訪ねてきて、コンコンと重たいノックをするのだ。
怖い。
怖い。
その感覚はぶどうも覚えていた。
しかし、彼もまた、この世界の終焉を望むものの一人だった。
おもむろにぶどうは有村の用意した「プレゼント」の一つ、その最後の一つを握りしめその上部にあるピンを引き抜く
リン――という音が聞こえて
刹那、最後のドアがプラスチック爆弾により破壊され、襲撃者たちと対面する。
「手を上げろ。おとなしくしていれば、命までは奪わない。」
リーダーであろう先頭の男が諭すように、威厳を持つようにぶどうとろりへにょに語りかける。
するとぶどうは口を開いた。
「この世界は猫にゃんころげにゃのだ。」
意味のわからないセリフだった。ぶどう氏が猫好きなのは知っている。彼とは幼馴染だった。
あれは中学校の頃だろうか。
ぶどうが不登校により学校に来なくなってもう2年が過ぎていた頃――
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「ぶどうくーん」「みんなで学校いこうね!」「先生も待ってるよ!」
と家の外から自分を呼ぶ声が聞こえる。
当時僕は精神的な疾患を抱えていたのだと、今ならわかる。
しかし当時は他者にも、家族にも、自分にさえも興味がなかった"虚無"であった僕には些細なことですらなかった。
外から聞こえる同級生の声すら煩わしい、僕の気持ちがわかって貯まるものか。意地でも外に出ないぞ。
と決心が固くなるばかり。
吐き気がする。
気持ち悪い。
僕の中から出ていってくれ――!!
そんな日々を続けたある日、幼馴染であったろりへにょだけが静かに僕を支えていてくれた。
僕にはコミュニケーションが上手に取れないし、この感謝に想いも精神が回復してきた今でも伝えることは叶わなかった。
あのとき何も語らずとも、静かにそばにいてくれただけのろりへにょ君にどれだけ救われたか、彼にはそんな事微塵も伝わっていなかっただろう。
微笑んで静かに隣りにいてくれる彼が、僕の唯一の生きがいだった。
この先きっと、彼が困ることがあれば僕が助ける。
それが唯一できる僕からの恩返しなんだ。
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「この世界は猫にゃんころげにゃのだ。」
例のものを握りしめた彼はそうつぶやくと、まっすぐ敵のリーダーのもとへあるき出す。
「ぶどう君......まさか君は......」
「おい!止まれ!止まらなければ射殺する!」
拳銃をまっすぐぶどうの額に合わせ、指をトリガーにかけている戦闘員に目もくれずぶどうは歩く。
歩く。
――歩く。
「止まれと言ったはずだ!畜生、撃て!撃て――!」
乾いた発砲音は中を舞い、空気をつたい、ろりへにょの耳に残酷にも届く
「や――め.......っ!ぶどう君!!!!!」
ぶどうの歩みは止まらない。止まることも、恐れも知らない。
澄み切った瞳には戦闘員の姿はなく、あの日の自分とろりへにょの温かい姿が写っていた。
「―――――!」
ぶどうの口元が動いた気がする、そんな気がした。
ハッキリと知覚することは出来なかった、なぜなら―――
「ぶどう―――――――――――!」
白くきらめく世界に吸い込まれた彼は耳をつんざくばかりの轟音と、立ち込める硝煙の中にはもうその姿を確認できなかったのだから。




