死出山怪奇譚集番外編 〜introduction for 3rdgenerations〜
……満月の日、優太は自分の部屋で一人じっと座り込んでいた。何時もは一緒に居るはずの両親は居ない。
「今日は、あの襖の部屋を覗いてはいけない日だ…。」
幼い頃からそう言い付けられていた。最初は何も知らず、疑問にも思わなかったが、それが人間の性なのか、気になって少しだけでも覗いてみようと思ったのだ。
「だ、大丈夫だよね…」
優太は自分の部屋を抜け出して、襖の部屋に向かった。すると、そこには灯りが付いていた。
「少しだけなら、良いよね?ほら、ここに隙間があるんだし…」
優太は恐る恐るそこから様子を見た。すると…小さいのでよく見えないが、志保が倒れ、茂はそれを見下ろしていた。その口元は赤く染まっている。
「あっ…」
叫び声をあげかけて口をつぐんだ。
そして、向こう側から姿が見えないように這うようにそこから離れ、自分の布団の中で震えていた。
しばらく経って、何かの気配を感じた優太は布団からそれを覗いた。すると、茂がこっちを見て殺気を帯びた笑顔をしている。そして、怨念を込めた声でこう言った。
「決して覗くなと言っただろう…?!」
「あっ、うわぁぁぁ!」
優太は布団から飛び起き、茂から離れようとした。
「ご、ごめんなさい!僕、どうしてもあの襖の先で何をやってるか気になって覗いたんだ…。もう、覗かないから、これからはお父さんの言いつけちゃんと守るから、だから…許して。」
茂は優太に顔を近づけてくる。
「なぁ、優太はそこで何を見たんだ?」
「そんなの…言えないよ…。」
もちろん優太は何をしたのかは知っていた、だか、それを本当の事だと認めてしまうのが怖くて、忘却の彼方へと追いやったのだ。
「いいから言え」
「あっ……」
優太は考えて、やっと絞り出すような声でこう答えた。
「お父さんは…、お母さんの血を…、吸ってた……?」
すると茂の口元が緩んだ。
「………正解」
「えっ?」
「間違ったら考えたけど、合ってるよ、優太。……そうだ、今からあの部屋に入らないかい?」
優太と茂はあの襖の部屋に入っていった。
そこは思ったよりも広かった。優太はなるべく茂から離れようとしたが、茂は優太の首筋を触ってきた。
「脈はこの辺か……」
「お父さん?」
茂の口元は濡れている。
「夜襲は何度もあるけど、こうするのは初めてだね?フフッ…君は相変わらず旨そうだよ。」
そして、茂は優太の首筋に噛みつき、血を啜った。
あまりにも突然で、優太はどうする事も出来ず、小さな叫び声を上げて、涙を流していた。
そして、口を離した茂は口元に血を着けたまま、笑っていた。
「お父さん?ひょっとして、僕が襖を覗いたからそうしたの…?」
すると茂は優太を抱き締めた。
「それだからと言ってどうする訳でもないさ。ただ
私は優太を怖がらせたらどうなるか、気になっただけなのさ…。」
満月はずっと渡辺邸を照らしていた。
………玲奈は珍しく茂の家で泊まっていた。その日は両親も志保も居らず、二人、襖の部屋で夜を過ごしていた。
「お祖父ちゃんと居れて嬉しいよ!」
「ああ、そうだな…」
すると茂はどういう訳か玲奈の首筋を触っていた。
「…馬鹿だね、志保はなんでこの日に出ていってしまったのかな…。ひょっとして逃げたか?…まぁいい、そうなれば玲奈が格好の餌食になるだけだからな…。」
「えっ…?!」
玲奈は茂の手を離して後ずさりをした。
「お、お祖父ちゃん…?」
そして何かを感じた玲奈は襖を開け、部屋から出た。
「玲奈、私から逃げるつもりかい?」
茂も部屋から出た。
玲奈は大きな箱を見つけてその中に入った。茂の声が何処かから聞こえてくる。
「何処だ…?この私から逃れられると思ったのか?
さぁ…今宵の獲物は何処に居るのかい?」
足音はだんだん近づけてくる。玲奈は身体を埋めて、静かに震えていた。
そして、周囲が突然明るくなったと思うと、茂が笑って玲奈の方を見ていた。
「あっ!」
再び逃げようとしたが、茂の細く、そして力強い腕に捕まってしまった。
「何をするのか言ってないのに、逃げたら駄目だよ?」
茂は子供のように笑っている。
「玲奈、お前………、可愛いなぁ…。そして、白くて、柔らかくて、温かくて…そして…、旨そうだ。」
「えっ?」
そして茂は鋭い犬歯を見せたと思うと、玲奈の首筋に噛み付き、血を啜った。
玲奈は小さく叫び声を上げて涙を流していたが、その涙も全て啜られてしまった。
「お祖父ちゃん…なんでこんな事を……。」
玲奈はそう呟いたが、やがて眠ってしまった。
「やれやれ、寝てしまったか…」
茂は玲奈を抱え、布団まで運んで行った。
満月は今宵も渡辺邸を照らしていた。




