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『僕にもよく状況はわからないんだけど、なにか、とても強い意志のようなものが、窓の外から君に向けられたんだ。まあ、魔力の塊のようなものをぶつけられらと思ってもらえればいいよ』と魚は言った。
「魔力? じゃあ、私が後ろに吹き飛んだのは、その窓の外から私に強い意志を向けていた、魔力を持つ『誰か』の仕業だったってこと?」
『そうだよ』
「そうだよ、じゃないでしょ!!」
星は魚に文句を言った。
「こういうときは、契約に従って、あなたが私を守ってくれるはずでしょ!?」星は言う。
『なに怒ってるのさ。あのね、言っておくけど、もし僕が今ここにいなかったら、もっと大変なことになっていたと思うよ。君の体は、僕と契約を交わしたその日から、僕の魔力によって、ちゃんと保護されているんだからね。もし僕がいなかったらこの程度ではすまないよ。魔力をぶつけるっていうのは、簡単に言ってしまうと『呪い』の一種なんだからね。僕はきちんと契約を守っているよ。それなのに怒るなんてとんでもない。むしろ感謝して欲しいくらいだね』魚は言う。
「でも、緊急回避とかさ。そういうのはないの?」
『ない。魔法は万能ではないんだよ。魔法とはあくまで人の心が持つ空想の世界の中の力のことなんだからね』魚は自信満々な態度でそんなことを言っている。
魚の反論を聞きながら星は開きっぱなしの窓に近づき、窓枠の下を両手で掴んで、(上半身を窓の外に出すようにして)そこから、じっと外を見た。
星はそこから暗い雨の降る冬の森の中を瞳を動かして素早く(そして注意深く)観察する。
『君、僕の話聞いてる? そこは危ないよ?』
「聞いてる。怒ったことは謝るし、それに感謝もしているわ」
魚と会話しながらも星の瞳の動きは止まらない。




