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「いいの? 勝手に触っちゃって? 澄に嫌われちゃうかもしれないよ?」
魚はそんな言葉で星の行動に忠告をした。
「いいの、いいの。だって澄くんは部屋でくつろいでいてねって私に言ったんだもの」
そう言いながら星は大きなテーブルの周りをゆっくりと歩きながら、澄くんの部屋の中にあるものを次々と勝手に触ったり、じっくりと(楽しそうに)観察したりしている。
「くつろぐっていう言葉の意味は人の部屋にあるものを勝手に触ってもいいっていう意味じゃないよ?」
「知ってます」と星は言う。
星は天井に吊るされている銀色のランプを眩しそうな目で見つめたあと、手に持っていた折りたたみ傘をボストンバックの置いてある戸棚の脇の壁に立てかけ、それからまるで鏡のように光を反射する、暗い大きな窓に写り込んでいるもう一人の自分自身に向かってにっこりと笑顔を向けた。
そのあと星は戸棚の上の深緑色のリュックサックやそ子に繋がれている銀色のカンテラや水筒を(物珍しそうな目で)観察し、スコップやツルハシを指先で触り、大きな木の箱をじっと眺めて、大きな戸棚を観察して、そして部屋の隅っこにある小さなテーブルの前までやってきた。
そのテーブルはどうやら澄くんの(個人的な)机のようだ。
澄くんの机の上にはいろんなものが置いてある。
まず目を引くのが木を材料にしたトナカイの彫り物だった。とても精巧に彫られているけど、売り物としては作りが少し荒い気がする。もしかしてこれは澄くんが自分で彫ったのだろうか? そうなのかもしれない。トナカイの彫り物の横には彫刻刀のようなものが置いてあるので、その可能性はかなり高いと思う。
トナカイの彫り物の近くには古いアンティークな地球儀が置いてある。星はそれを指でくるくると三周くらい回して遊んだ。机の真ん中にはノートが一冊と使いかけの鉛筆が一本転がっている。黄緑色のノートと2Bの(半分くらいの長さになった)鉛筆だ。