94 透明な風の吹く世界の中を、いつも私たちは歩いている。
透明な風の吹く世界の中を、いつも私たちは歩いている。
僕は暖炉に火を焚べる。そうやって世界に小さな明かりを灯すこと。……冷たくなった世界をほんの少しでも温めること。それが僕のこの森の中での役割なんだ。
「じゃあ、僕、ちょっと奥の部屋で青猫を休ませてくるから、星は適当にくつろいでいてね」
「うん、わかった」
星がそう返事をすると、にこっと笑った澄くんは部屋の奥に一つだけあるドアを開けて、胸に抱えた(白いバスタオルに包まれたままの)青猫と一緒に奥の部屋にいってしまった。部屋の中には星だけが一人残される。
『へー、澄のことだからもっとサバイバルしているのかと思ったけど、結構しっかりとしているじゃないか。これなら思った以上にきちんと疲れを癒すこともできそうだね。ラッキーだよ』
澄くんがいなくなった途端、ずっと黙っていた魚が星にそう話しかけた。
「うん。そうだね」
星はそんな魚に上の空で返事をする。
『……どうかしたの? なんかぼーっと、しているようだけど?」
「別にぼーっと、なんてしてないよ」
そう言いながら、星は明らかにぼんやりとしている。星は部屋の中のあちこちに不自然に目を走らせる。星の目は泳いでいる。落ち着きもないように見える。
『君、もしかして緊張してるの?』
魚は星にそう聞いた。
「え!?」
図星だったのか、(それともまったくの的外れな意見だったのか)その言葉にとても驚いた星は一瞬体を震わせて、顔を赤く染めながら、慌てて魚に言い訳を始めた。




