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「本当は勝手に入っちゃいけないんだけど、みんな全然私の話を聞いてくれないから、(つまり、クラス会議がまとまらないから)自分でなんとかすることにしたの。それで、日曜日を一日まるまる使って、倉庫の中を探索して、そして月っていうタイトルの本を見つけ出したのよ」と海は満足そうな顔をして言った。
「なるほどね。そんなことがあったんだね」と星は海の話を聞いて納得する。
「それって、どんなお話の本なの?」
星が海にそう聞くと、海は近くにどかしてあった教室の誰かの机の上に置いてある一冊の真っ白な薄い本を手に取ると、それを星に手渡した。それは月の演劇の台本だった。台本は机の上にもう何冊か重ねて置いてあった。その台本は生徒たちが勝手に持っていっても良い、予備の台本の一冊だった。星は少し前に演劇の台本を海から受け取っていたが、その本は今、(とても読めるような状態ではないぼろぼろの状態で)星の部屋のずっと奥のほうに、封印されたままになっていた。(中身はもちろん読んでいない。と言うか星はそれが演劇の台本であることを今の今まで知らなかった)
星は真新しい月の台本をじっと見る。
つまり、内容はここに書いてあるから、これを読め、ということだろう。
「簡単でいいから説明してよ」台本を受け取りながら星は言う。
「だめ。せっかくクラスみんなんで劇をするんだから、みんなで参加するの」
海は笑いながら星に言い聞かせるような口調でそう言った。(まるでお母さんみたいな言いかただった)
そのとき、急に教室の中がざわめいた。
星と海は驚いて周囲の様子に目を向ける。すると、どうやら騒ぎの原因が『空から雪が降ってきたこと』だと判明した。
クラスメイトのご友人たちは窓際に集まって一斉に雪の降る空を眺めだした。窓際に移動しなかった何人かの少数派は、そんな多数派の動を(やや呆然とした、出遅れた感のある)呆れた眼差しで見つめている。
星と海は少数派に属していた。本来なら海は多数派に属していたはずだ。海が少数派のグループに残っているのは、……そこに、(少数派の)星がいたからだ。
「……雪、降ってきたね」
教室の床に座りながら、窓の外を見つめる海が小さな声でそう呟いた。