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「もう、さぼってばかりいるからだよ。なんの演劇をするかで意見がまとまらなかったから、一度、みんなでやりたい演劇の原作を持ち寄ることになったの。それで、私が持ってきたのが月ってタイトルの古い本だったの。そしたら、驚いたことにそれが採用されたの」

 海は真面目で成績も良く、なにより引っ込み思案な性格なため、積極的にクラス会議に参加させられていた。そんな海を見て可哀想だなと思うことも度々あったが、海はきちんとその責務をこなし、今もこうして笑顔で教室の中にいる。

 海はとても強くなった。……きっともう、私なんかよりもはるかに強い。海は私よりも、遥か遠くの場所まで、(きっと走って)行ってしまったんだ。


「ふーん。そんなことがあったんだ。でも、どうして海はその本を会議に提出したの? 海ならもっと有名な本をいくつも知っているでしょ?」

「もちろん、最初からその本を会議に持っていくつもりはなかったのよ。でも、有名な本や演劇の原作はあらかた会議で出尽くしてしまっていたし、……もっと刺激のある、なんていうのかな? ……まだ見たことも、聞いたことも、読んだこともないような、そんな新しい新鮮なお話をみんな求めていたの。それでわたしも悩んでしまって、最初は星に相談しようとも考えたんだけど、……機嫌が悪そうだからそれは諦めたの」

 最後のほうだけ海は星の顔を見て話した。

 星は海と視線をそらしてペンキ塗りの作業をする自分の手に視線を向けた。……思い当たる節がある。確かに最近、海の様子が何度かおかしかったこと(話したいことがあるのに、その話をうまく切り出せないような、もじもじとした雰囲気)があったような気がする。


「それで私、家の裏の倉庫に本がたくさん眠っていることを思い出したの。星も知ってるでしょ? あの古い倉庫のことだよ」海は言う。その言葉に星は頷く。星は確かにその倉庫のことを知っていた。(倉庫というよりも実際には古い蔵のような建物だ。江戸時代とか、それくらい古い時代からその土地に建てられていて、今も現存しているもので、建築とかそういった業界では、それなりに有名な建物らしい)

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