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二人は作業を再開した。
「演劇って結局、なにやることになったの?」
ずっとクラス会議をさぼっていた星は海にそう聞いた。
「『月』っていうタイトルの劇だよ」
海は一生懸命、真面目に板にペンキを塗りながら星の問いにそう答えた。
……『月』? 月光ではなく、(満月とか、月読みとかでもなく)ただの月。……ずいぶんシンプルな題名の劇なんだな、と星は思った。
本を読むことにかけては少し自信のある星なのだが、そんなタイトルの本は(演劇の本も含めて)見たことも聞いたこともなかった。
「それって結構有名なお話なの?」
もしかしたら『月』とは文学ではなく、演劇の世界では、とてもメジャーなタイトルなのかもしれないと星は思った。もしそうであれば星が(あまり興味のない演劇分野の本ということで)見逃している可能性はある。なにせすべての本を読むことは(あるいはインデックスすることは)どんな人間にも不可能なことなのだから。
星は海に質問しながら頭の中でそんなことを考えていた。
「全然有名じゃないよ。だってこのお話、私の実家にある倉庫の中で見つけた、とっても『古い本』の中のお話なんだから」
「古い本?」
星には海の話がよく飲み込めない。そんな星を見て海はにっこりと笑った。




