89 ねえ、知ってる? この世界はね、もう大きな(本当に大きいんだよ)怪獣に食べられちゃっているんだよ。
ねえ、知ってる? この世界はね、もう大きな(本当に大きいんだよ)怪獣に食べられちゃっているんだよ。
「はい、飲み物。ホットコーヒーでよかった?」
そう言って海は星にホットコーヒーの入った紙コップを手渡してくれた。
「ありがとう。海は優しいね」
星は海にそう言った。その言葉を聞いて海は笑う。
「どうしたの? なんだか今日は変なこと言うのね?」
「変? 変ってなにが?」
星は海にそう尋ねた。
「だってありがとうとか優しいねとか、変だよ。星っぽくない。いつもなら、うん、とか、まあ、とかしか言わないのに、どうしちゃったの? ……熱でもあるの?」
そう言って海はそのとても小さな手のひらを星のおでこにくっつけてきた。星はそんな海の行動にとくに抵抗はせずに、じっとしていて、海のしたいようにさせていた。
「うーん。熱は、ない、かな? ……でも、とっても冷たい。きっと体が冷えきっちゃってるんだね」
海はもう片方の手を自分のおでこにくっつけながら星にそんなことを言った。
とても冷たい冬の風が星と海の(ほんの少しの)間を吹き抜ける。その風のあとを追うようにして海が暗い冬の星の見えない真っ暗な夜空に視線を向けた。星も、海に引っ張られるようにして、その真っ暗な闇の中に自分の目を移動させた。
寒さは一段と厳しさを増している。
もしかしたら今夜は、このまま雪になるかもしれないな、と星はそのとき、(その風の寒さを感じて)思った。