88 あなたが泣けば世界が泣き……、あなたが笑えば、世界が笑った。
あなたが泣けば世界が泣き……、
あなたが笑えば、世界が笑った。
はぁー、とても気持ちいい……。思っていた以上に、どうやら自分は疲れていたようだ。椅子の上で星はぐったりとしている。
「……星、ちょっとごめんね」
「……え? ……な、なに!?」
星は驚いた。澄くんの顔が近い。(今度は澄くんのほうから突然星に)キスされるのかと思った。
しかし、澄くんは星の唇ではなく、その手を(唇ではなく手だ)星の頭の上のほうに伸ばし、その大きな手(星から見れば澄くんの手は大きく見える)を星のおでこにぺったりとくっつけた。
「ちょっと熱っぽいかな?」
澄くんは自分のおでこにも手を当てて、そんなことを言ってるが、……星はそれどころではない。
「……あ、す、澄くん! ……その、えっと、そうだ、傘! 傘、預かるわ! いつまでも持たせっぱなしにしちゃってごめんね!」
星はそんなことを言って澄くんの腕にぶら下がっていた自分の折り畳み傘を強引に受け取った。
「……澄くん! ほら、青猫! 青猫なんとかしないと。きちんと休ませてあげるんでしょ?」
「え? あ、うん。そうだけど、星は大丈夫なの?」
きょとんとした顔で澄くんは言う。
「私? 私は全然大丈夫! (星は胸を張る)こう見えても私、健康だけが取り柄なの。風邪なんて生まれてから今まで一度もひいたことないし、よく走ってるから見た目よりも体力あるし、今もそれほど疲れてもいないわ」
それは両方とも嘘だった。
星はよく風邪をひいたし、(そのことで無理をし過ぎだと海によく怒られた)それから星が毎日のように走っていることも、体力に自信があることも本当のことだったが、今の星は目を閉じれば今すぐにでも(本当に数秒とかからずに)眠れるくらいに疲れていた。
「本当に?」と澄くんは言う。
「本当だよ」と星はにっこりと笑って澄くんに答えた。