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その部屋には澄くんの森での暮らしぶりを感じさせる生活感があり、それでいてなおかつ、どこか遠くの山奥の別荘にでも遊びに来たような楽しさが残っている。
澄くんがここでどのような暮らしをしているのか、置かれた物や部屋の配置から想像し、星は少しの間、動くことを忘れて、頭の中で空想の澄くんを動かして遊んでいた。
「ありがとう。ほら、星。歩きっぱなしで疲れたでしょ? ここ、座って」
澄くんは二脚ある(大きなテーブルのこちら側と向こう側に一つずつある)椅子の一つを引いて、星にそこに座るように言ってくれた。(小さなテーブルの前にも、もう一つ椅子がある。だから、この部屋の椅子の数は全部で三つだ)
「荷物預かるよ。そこの窓際の棚の上に置いておくけど、それでいい?」
「うん。大丈夫」
澄くんは星がぼんやりと空想ごっこをしている間に、腕の中に抱いていた(白いバスタオルで包まれたままの)青猫を奥のテーブルの上に寝かせた。澄くんは外を歩ている間、強い雨の中でずっと頑張ってくれた星の折りたたみ傘を手首の部分にかけるようにして持っている。
星はボストンバックを澄くんに手渡した。
澄くんはそれを窓際の棚の上に丁寧な仕草でそっと置いた。
その結果として、棚の上には星の真っ白なボストンバックと澄くんの深緑色のリュックサックと金属のカンテラが並んで置かれている状態になった。
その風景を少しの間、眺めたあとで、星は奥のテーブルの上にいる青猫の姿を見た。ずっと大人しくしていた青猫はもう眠ってしまったのかと星は思っていたのだけど、青猫はきちんと起きていた。
星はじっと(思わず)青猫の緑色の瞳を見つめた。そんな星のことを白いバスタオルの中から青猫はじっと不思議そうな眼差しをして少し首をかしげながら見つめ返していた。
「星、座らないの?」
澄くんの声が聞こえる。
「え? ……あ、うん。今、座るわ」
そう言って星は椅子に腰掛けた。




