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星はちらっとボストンバックの後ろから顔を覗かせた。
澄くんは小屋の玄関のドアを開けるために鍵を使用した。それは森の門を閉じるときに使った鍵束と同じ鍵束だった。澄くんの持っている鉄製の鍵束には鍵が三つくっついていた。
大きな鍵と中くらいの鍵と小さな鍵だ。
大きな鍵は森の入り口の門の鍵。
中くらいの鍵は今、使用している歩の住んでいる小屋の玄関ドアの鍵。
では、残った小さな鍵はなんの鍵だろう?
そんなことを星は考える。
それらを確認した星は(澄くんが星のほうを向くと)さっと顔をボストンバックの後ろに戻した。
そんな星の行動を澄くんはやはり不可解な目で見ている。
「星、さっきからなにしているの?」と澄くんは言う。
「え? えへへ。別になんでもないよ」と星は言う。
星はボストンバックを元の位置に戻し、(肩にかける持ちかたに戻した)澄くんに不器用な愛想笑いをする。そんなことをしながら星は自分でも自分がちょっとだけ気持ち悪いと思った。
でも澄くんは(もちろん?)そんな星に失礼なことはちっとも思ってはいないらしく、ようやくバックの後ろから顔を出してくれた星に向かって、いつもの優しい笑顔を向けてくれた。
「どうぞ」澄くんが言う。
「ありがとう」星が言う。
澄くんにエスコートされるように案内されて、星は澄くんの家の中に入っていった。