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「さあ、着いたよ星。ドアを開けるから、ちょっとだけ離れてもらってもいいかな?」
「え?」
澄くんの言葉で星ははっとなる。
星と澄くんはすでに短い階段を上がり、小屋の玄関のドアの前にいた。二人の頭の上には屋根の出っ張りがあり、小さな星の傘の代わりに、きちんと雨を防いでくれている。澄くんは星の隣で傘をたたみ始めている。でも星はそれらの周囲の状況の変化に(この瞬間まで)まるで気がつかずに、今もぺったりと(まるでお互いの愛を誓い合った恋人同士のように)澄くんの肩にその頬をくっつけていた。
「あ、ごめんなさい!」
驚いて、それから星は急いで澄くんから離れた。この辺から、星の心は(まるで夢から覚めたように)いつもの星に急激に回帰した。
そんな星の様子を澄くんは不思議そうな顔で見つめる。顔を真っ赤に染めた星の頭の中には、なんの言葉も浮かんでこない。
まるで小屋についたことと同時に星にかかっていた(星を大胆にする恋の)魔法が解けたようだった。
なので(魔法が解けたことの代わりに)言葉を失った星はその代わりの緊急回避として肩にかけて持ち歩いている自分の大きなボストンバックを両手で持ち上げて、自分の顔をその大きなバックの後ろに隠すことにした。実家を出るときにリュックサックと迷ったのだけど、顔が全部隠れるくらい大きなボストンバックを選んでよかったと、星はこのとき本気で思った。
星のよくわからない行動に澄くんは不可解な顔をして首をひねった。
「……えっと、じゃあ、開けるね」澄くんの声が聞こえる。(でも澄くんの顔は見えない)
「……うん」
星は短く返事をする。