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雨が降っている。
二人は雨の中を、ゆっくりと歩いている。まるで学院からの(星と海の二人だけの)下校の時間のように。
「星、着いたよ」
澄くんが星の耳元で囁くようにそう言った。
「着いたって、どこに?」
「僕の家だよ。ほら、あそこを見て」
澄くんが夜の中で、どこか遠くを指差した。星の目がそれをゆっくりと追っていくと、すると、その先にはとても大きな木があった。(その木は暗い森の夜の雨の中でも、確かに認識することができた)
その木はとても大きかった。(澄くんが青猫を追いかけていったとき、星が背中を預けた木も大きかったけど、その木よりも何倍も大きい)周囲の森から頭一つ分は、抜き出ている。
確かにあの木なら目印になる。
「大きな木だね。もしかしてあの木が、この森の中で一番大きな木なんじゃないのかな?」と星は言った。
「そんなことないよ。森の奥にはもっともっと大きい木もあるんだよ」
澄くんはどこか森の遠くを見ながら言う。
「あの木よりも大きいの? それってどのくらい?」
星は背の高い澄くんの顔を下から見上げる。澄くんは優しい表情で、そんな星の顔を見返した。
「すっごく高いよ。あとで一緒に見に行こうね」
「うん」
星は元気よく返事を返す。
そんな子供っぽい星の笑顔を見て、澄くんはにっこりと笑っている。
そして魚は二人がそうして見つめ合っている間、(とても)不満そうな顔をしていた。
……それから二人は、それほど時間をかけずに、澄くんの家に到着した。