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二人は黙々と足だけを動かして、小川の隣を上流の方向に向かって歩き続ける。雨の降る音と小川の流れる水の音が聞こえる。隣には澄くんがいる。癒される。(そんな優しい時間が少しの間だけ、星の心をとても深く、清く、癒してくれた)
そのせいだろうか? 星は久しぶりにとても強い眠気を感じた。
……このままここで眠れたら私、幸せだろうな。
本当に寝ちゃったら、澄くんは私のことをどうするだろう? 私は自分で動かない大きな荷物になってしまう。澄くんは私のことをおんぶして運んでくれるのかな? それとも役立たずだって、森の中に捨てられちゃうのかな? (そんなひどいことはしない? 本当に?)
まぶたの重みに耐えられず(歩きながら、澄くんの腕に捕まって)目をつぶった星は暗闇の中でそんなことを考えていた。
……静かだ。
……すごく静か。
このまま、ここで私、(本当に)眠っちゃおうかな?
きっと澄くんなら、なにも言わずに眠りについた私を抱えて、(やっぱりおんぶではなく、抱っこにしよう。そのほうが嬉しい)澄くんの家まで運んでくれるだろう。
……澄くんはそういう優しい人だから。
「この森は雨がよく降るんだ」
闇の中に澄くんの声が聞こえてきた。
その声を聞いて、消えかかっていた星の意識はぼんやりと覚醒する。
「うん」
雨の音に耳を傾けながら、星は短く相槌だけで澄くんに答える。