74 第三幕 ……本当の宝物って、いったいなんだと思いますか?
第三幕
開演 ……本当の宝物って、いったいなんだと思いますか?
森の天気は変わりやすいらしいけど、それはあまりにも強い雨だった。その雨はあっという間に焚き火の火を消してしまった。
星はすぐに先ほど確認した折り畳み傘をボストンバックの中から出して、それをさした。それは小さな一人用の(ゴシック調の日傘のような)傘だった。
その傘はデザインが気に入って購入した品だったので、かわいいのだが、機能性に優れず(つまり弱くて小さいのだ)その傘の中に星の薦めで無理やり入った澄くんは星にその体をぺったりとくっつけるようにして、片方の肩だけ、雨に濡れるのをなんとかまのがれていた。
澄くんは上着のフードをかぶった。
それから白いバスタオルに包まれた青猫が雨に濡れるのを、可能なかぎり、その腕の中に抱いて防いだ。
二人は雨の中で(傘の下で)無言だった。
星の耳には激しく降る雨の音だけが、聞こえていた。
「星、よかったら僕の家にこない?」と澄くんは言った。
一瞬、星は澄くんの言葉の意味がわからなかった。
「この川の上流に僕の暮らしている小屋があるんだ。もう夜も遅いし、雨も降ってきたし、……なによりこいつをきちんとしたところで休ませてあげたいし、……もし星が嫌じゃなかったら、……どうかな?」と澄くんは言った。
星は全然嫌じゃなかった。
だから星は「ううん。全然嫌じゃないよ。私、澄くんのお家にいく」と、その心をありのままに(まるで小さな子供みたいな、もしくは目覚めたばかりのロボットみたいな口調で)言葉にして澄くんに言った。
どこかで魚が大きなため息をつく音がした。(でもその音は星の耳には届かなかった)
二人は荷物を持って立ち上がると、そのまま小川の上流に向けて移動を始めた。