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天気が悪い。
見上げる空に、星と月が見えなくなった。
いつの間にか、夜はとても暗くなっていた。白い月は森が閉ざされる前兆であると澄くんは言っていた。だから月が見えなくなることは、(たとえ暗い雲の後ろに白い月があったとしても)もしかしたら星にとってはいいことなのかもしれない。
だけど、空気がすごく湿っている。
そういえば森には雨が降った形跡があった。
もしかしたらもう直ぐ森は、夜の雨になるのかもしれない。
遠くで小川の流れる音が聞こえる。
ぱつぱちっと、小枝が燃えて弾ける音が聞こえた。
それから、風の音が聞こえた。
……森に吹く風が、だんだんとその強さを増していった。
星はボストンバックを開けて、その中にある折り畳み傘を確認した。(ついでに雨に濡れないように本をバックの中にしまった)そのときに星はバックから自分のお気に入りの可愛らしい銀細工の腕時計と小さな丸いコンパスを取り出した。
それはどちらもその機能をまったく果たしていなかった。
時計は動きを止め、コンパスは北をさしてはいなかった。森に入ってから、それらはその役目を果たすことを放棄していた。(魚によると、それは自然なことらしかった。森には街とは違う、森の特別な時間と空間があるということだ)
二つの道具が使用できないままであることを確認して、星はそれらをバックの中にそっと戻した。
それから星はやることがなくなった。
………、………。
どうしよう?
星は困っていた。
魚? どうしたらいい?
星は心の中で魚にアドバイスを求める。(こういうのは星のよくない癖だった)
『どうしたの? 興奮したの?』と魚いう。
馬鹿! 違うわよ! と星は心の中で魚に答える。