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二人は少しの間、その場でじっとしていた。
二人はその間、無言だった。
星は海のこととか青猫のこととか、澄くんに聞きたいことがいろいろあったのだけど、なぜかうまく(いつものように)声を出すことができなかった。
冷たい冬の風が二人の周囲を吹き抜けた。その風に澄くんがぶるっとその体を震わせた。澄くんは今はちゃんと上半身に服を着ている。それは当たり前のことだった。だって今は冬なのだから。(星はそんなことを澄くんを見ながら思う)
冬に外で上着を脱いだり、ましてや川に飛び込んだりしたら、きっと風邪を引いてしまう。だからそれはいけないことなのだ。
そう考えてから、ふと星は自分の頭の中で、暗い川の中に一人で飛び込んで、水の中に深く(とても深い場所に)沈んでいく海の姿を想像した。(その想像を素早く星は振り払った)
「寒いね」とそんな当たり前のことを笑顔で澄くんは言った。澄くんの体はぶるぶると(まるで雨の日の子犬のように)震えていた。
「川に飛び込んだんだから当たり前だよ」と星は言った。星はそれから目の前でぱちぱちと気持ちの良い音を立てている小さな焚き火に小枝をくべた。(それは澄くんが森から拾ってきた小枝の予備だった)
焚き火の用意をした澄くんの行動はとても素早く正確だった。(迷いがなかった)
澄くんの森に関する知識はとても豊富で、その動きも手際もてきぱきとしていて、さすが森の中で暮らしているだけのことはあると星は思った。
星が森で(一回だけ)焚き火をしたときは(魚の助言があっても)すごく苦労した。でもおかげで星はなんとか一人で焚き火ができるようにはなっていた。
今度、焚き火をする機会があったら、自分も焚き火の材料となる落ち葉と小枝集めを手伝おうと星は心に決めた。