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青猫の傷の応急処置をした澄くんはそのあと森に行ってとても短い時間で木の枝を両手いっぱいに抱えて、星のいる河原に戻ってきた。澄くんはそこでてきぱきと焚き木の準備をした。古いマッチを擦って澄くんが火をつけると、それは明るい炎をともして燃え始めた。ぱちぱちという木の枝の燃える音がした。二人は焚き木のそばに並んで座った。青猫は澄くんの膝の上にいる。
「くしゅん!」と澄くんがくしゃみをした。
「澄くん。これを使って」
星は川に飛び込んでびしょ濡れの澄くんに白いバスタオルを手渡した。澄くんは「ありがとう」と行ってバスタオルを受け取ると上着を脱いで、(その行動に星はすごく動揺した)自分のくしゃくしゃの黒髪と上半身をそのタオルで丁寧に拭いた。
星の心臓はどきどきしていた。
少し青色の強いダークブルーの夜の中で、オレンジ色の炎の光に澄くんの顔と体が照らし出されている。その顔はいつもよりも凛々しく見える。(澄くんは童顔であるから、いつもはそうは見えない)その細い肉体にはきちんと(星の想像よりもはるかにきちんとした)筋肉がついていた。それは元からそうなのか、あるいは森で暮らしているとそういう体つきに自然となるのかはわからないが、とにかく澄くんはとても男性的な肉体をしていた。
星が男の人の(上半身だけとはいえ)裸を見るのは、幼いころの父親の記憶を除いては、これが初めてのことだった。