62 少し休憩
真っ暗な夜だけどさ。全然怖くないよ。
嘘じゃない。強がりでもない。
だって、……。
あなたとの思い出があるから。
あなたがいつも私と一緒にいてくれるから。
だから怖くないんだ。
本当だよ。
少し休憩
夢は夜に見るものだ。
私は今夜、あなたの隣でどんな夢を見るのだろう?
そんなことを私は思った。(舞台の台詞)
いつの間にか私は永遠の広がりをもつ巨大な『青色』の中に浮かんでいた。
またあの夢だ。
いつもの夢。
朝起きると忘れてしまう悲しい夢。
夢の中で私はあなたと再会する。
夢の中でしか私はあなたに会うことができない。
今も私を探してくれるの?
私はあなたのことを忘れてしまったのに、それでも私を探してくれるの?
あなたの中に私はいるの?
私はここにいるよ。
私は空の中にいる。
いつまでも、いつまでも、あなたが来るのを待っている。
あなたが私を見つけてくれる日まで、私は空であなたを待っている。
あなたが憧れた世界で。
青色の中であなたを待っている。
だからお願い。
お願いだから『あの子』を守ってあげて。
『あの子』を一人にしないであげて。
私は大丈夫。
少しぐらいなら我慢できる。
(私は我慢するのは得意だから安心して)
だからお願い。
私の代わりに『あの子』を愛してあげてください。
お願いします。
たくさんの悲しみが海の中に流れ込んでくる。この気持ちはどこから来るんだろう? これは私? 私の記憶? それとも違う誰かの夢?
私が誰かの夢の中に迷い込んだのかな?
よくわからない。
でもすごく悲しい。
それだけはわかる。だって私は泣いているから。眠りから覚めるとき、私はきっと泣いているから。
全部忘れてしまうけど、涙に触れることで悲しいことが理解できる。
自分が悲しいんだって確認することができるんだ。
この人の願いを叶えてあげたい。
悲しみから救ってあげたい。
頑張れ、私。
ちゃんと覚えておかなくちゃ。
私の願い。
『夢の中の私』の気持ち。
消えないで。
お願いだから、少しでもいいから、私の中に残っていて。
海の世界は暗転する。
青色の中で浮かんでいたはずの海の体はいつのまにか『嵐の中』に飛ばされてしまった。
嵐の中を私は飛んでいた。
巨大な光とともに激しい雷が空を支配している。とても強い風に体が吹き飛ばされそうになる。激しい雨で視界がふさがれる。……なにも見えない。……轟音で耳が痛い。
「外の世界は嵐なんだよ」
そんな言葉を思い出す。
私の大切な人の言葉。世界で一番大好きな人の言葉。
私はその言葉に勇気を貰い空を目指す。
恐れてはいけないんだ。嵐の中を突き抜けるんだ。
高度を上げていく。
私の体は厚い真っ暗な雲の中を突き進んでいく。飛んでいるのか、落ちているのか、それすらも曖昧になる。
それでも飛ぶことをやめない。
信じているから。
『空』を信じているから。
私は手を伸ばす。
その手を『誰か』が掴んでくれたような気がした。
雲を突き抜けて、青い空の中に私は飛び出した。
真下には真っ白な雲海が広がっている。
くるっと体をひねって上を向く。
そこにあるのは絶対の青。
生涯忘れることのできないような強烈な青色。
私はそれを見て泣いてしまう。
(結局、我慢できなかった)