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澄くんはてきぱきと青猫の治療を進めていく。いつものおっとりとした澄くんとは違う澄くんがそこにはいた。星は澄くんの手際の良さに見とれてしまった。
「澄くん、すごいね。こういうの得意なの?」
星は澄に聞く。
「得意っていうか、慣れてるだけだよ」話しながらも澄くんの手は止まらなかったし、その視線はまったく動かなかった。
「慣れる?」
どういうことだろう? と星は首をかしげる。よく怪我をする人でも澄くんのそばにいたのだろうか?
「よし、終わったよ」
澄は青猫を両手でつかんで星のほうに向けた。しっかり手当てできてるでしょ? と言いたかったのだと思うが、星は思わず澄くんの体にぴったりとくっつけていた顔を後ろに引いて、青猫と距離をとる。
「あれ? 猫嫌い治ったんじゃないの?」
「治ってない、治ってないよ! なんでそう思ったの!?」ぶんぶんと首を左右に振りながら星は言う。
「いや、だって青猫のことすごく心配してたから」
澄くんはいつものとぼけたような顔で星にそう聞いた。そこには星のうっとりした、きりっとした顔つきの凛々しい澄くんの姿はなかった。
「私は別に猫が苦手なだけで、この世界から猫なんて滅んでしまえばいいとか、普段からそんなことは思ってないの。だから、怪我をしていれば心配だってするのよ」
「そうなの?」
「そうよ」
星はそう言って笑った。
それはいつもの元気な星らしい、とても自然な笑顔だった。
どうやら星は澄くんと再会したことで、いつの間にか元気を取り戻したようだ。