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「星! よかった、無事だったんだね! ずっと探してたんだよ!」
葉山澄はそう言って、小川の中から星に大きく片手を振った。青猫の体は、もう片方の手でちゃんと捕まえている。
星は河原の上にお尻をついて座り込む。
なんだかどっと疲れてしまった。なぜだろう? ほっとしたのかな?
「星? どうかしたの?」
澄くんはそう言いながら、ばしゃばしゃという音を立てながら小川から上がると、星の座り込んでいるところに向かって歩いてきた。平気そうにしているけど、澄くんの体は小さく震えている。当然だ。澄くんは氷のように冷たい冬の小川に飛び込んだのだから。ずぶ濡れの澄くんは、その体を寒さでがたがたと震わせながらも、いつもと同じように笑顔でにっこりと笑っている。
そんな澄くんの顔を見ていると、星はなんだか呆れてしまう。色々言いたいことはあるのだけど、なぜだかどれも言葉にならない。
星の目の前に座り込んだ澄くんは、そんな状態の星を不思議そうな目で見つめている。澄くんの腕の中にいる青猫は、そこから脱出しようとして、これでもかというくらい力強く暴れていた。
星はなんだかぼーっとしてしまった。
表現としては腰が抜けたという感じだろうか? 体が重くって、さっきまであんなに動いてくれた足も、今は少しも動いてくれなかった。
澄くんはなにも言わずに星に微笑むと、星の手を取り、星が立ち上がるのを手助けしてくれた。
「星、歩ける?」
「うん、大丈夫」
そうやって星は澄くんに介抱されるようにして、自分のボストンバックが転がっている場所まで連れて行ってもらった。その場に着くとまた、星は河原の上に腰を落として座り込んでしまう。
「ごめんね澄くん。なんだかよくわからないんだけど、急に力が抜けちゃって」
「別にいいよ。きっと、疲れたんだよ。そういうときもあるよ」
澄くんはそう言いながら、ぶかぶかの服の水を可能なかぎり片手で絞りとるようにしながら、青猫の体の様子を観察していた。
『ねえ? 青猫の怪我のこと、澄に言わなくていいの?』魚が小声でそう呟いた。
星は、はっとする。
「あ、澄くん、あのね、青猫、後ろの右足をけがしてるみたいなの。もしかしたら骨が折れているかもしれない」
「後ろ足?」
澄くんは星の言葉を聞いて青猫の後ろ右足を触る。するとすごい声で青猫が鳴いた。