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「もしそうなら、きちんと私に謝らせて欲しいの。それにほら、あなた、怪我をしているんでしょ? 実は私ね、携帯用の薬箱を持ってるの。用意がいいでしょ? 痛み止めもあるし、ガーゼも、包帯だってあるのよ。ね? 気がきくでしょ?」
星は言葉を話しながら、青猫が一瞬でも油断したらその瞬間、青猫に飛びかかるつもりでいた。引っ掻かれたり、噛まれたりするかもしれないが、大丈夫。そのときのための薬箱なのだ。
そして、その瞬間は訪れた。
かすかに風が吹いて、赤いリボンでまとめられた星の髪が揺れた。その風は小川の向こう側、つまり青猫の背後から吹いてきた風だった。青猫は風の吹いてくる方向に視線を向ける。
それと同時に、星は青猫に向かって飛び出した。
いける! 完璧なタイミングだ!
星は青猫を捕まえられると確信した。
しかし、青猫は星の動きをとっさに察知すると、一気に後方に飛び退いて星をかわした。星の両手は空を切り、星はそのまま岩の上に激しくダイブした。対して青猫は着地に失敗し、凸凹石ばかりの河原の上を転がるようにしてまた星から距離をとると、その場所でさっきと同じように星に対して身構えた。
うつ伏せの体勢から頭だけを動かして青猫を見つめる星。
星はそれなりに強く、その体を岩に打ち付けている。よく見るとその手のひらやスパッツに保護されていない膝などには赤い血がうっすらとにじんでいた。
『失敗しちゃったね。でも、まあ、その勇気だけは認めるよ』傷をおった星を見て、魚はそんなことを言っている。
でも星はそんなことはちっとも気にならなかった。
星が気になっていたのは青猫のことだった。青猫は今の攻防で星のことを完全に敵だと認識したようで、先ほどまで以上の強い敵意を星に向けて放っているが、その反面、青猫は体のバランスを崩しては凸凹石の上に倒れこみ、倒れてはまたすぐに起き上がるとういう痛々しい行動を何回も繰り返していた。
「ごめんなさい。怪我、悪化しちゃったのね」
迂闊だった。
無理に捕まえようとすれば、こうなるかもしれないのに、全然そんなこと考えてなかった。