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しかし星は青猫を捕まえることを諦めたわけではない。星は青猫を観察する。確かに、魚の言う通り、青猫の後ろの右足は変だった。だらんとして、岩に足をつけていない。
「怪我してるの?」星は魚に聞く。
『そうだね。あの感じからすると、下手をしたら骨が折れてるかもしれないね』
青猫は星にいつでも飛びかかれるように、無事なほうの三本の足に力を蓄えている。
「どうしてそんな大怪我をしたんだろう? 澄くんから逃げているときに、どこかに落っこちたりしちゃったのかな?」
星は暗い森の中で見た大きな穴のことを思い出す。
『それはわからないけど、理由の一つとしてはやっぱり月があるんじゃないかな?』
「月?」
星は頭上に輝く白い月を見上げる。
月は今も青色の星空の中で、ひときわ目立つ輝きを放っている。
『うん。澄は月を心配していた。白い月が出ていると森に不吉なことが起こるってね。青猫の怪我はその不吉なことの一つなのかもしれないね。澄が青猫を僕たちのところに連れてきたのは、海を見つけることに役立つって澄は言っていたけど、もしかしたら、白い月の出ている夜に、青猫を保護する目的もあったんじゃないかな?』
「なるほど」魚の説明に星は納得した。
『もっとも、僕はそんなことちっとも信じていないんだけどね』魚は言う。
星は河原の上でスプリンターのような姿勢をとる。走ること全般について、とくに短距離走になら、星には少し自信がある。それを見て、青猫は星がやる気なのだと理解したようで、威嚇をさらに強めた。
牙をむき出しにして、とても敵意に満ちた目で青猫は星を睨みつけている。
「どうしてそんなに怖い顔をしているの? 出会ったとき、あなた、私に飛びついてきたじゃない? そのときは、その、私は怖かったんだけど、あなた自身は、そんなに怖い顔をしていなかったでしょ?」
星は猫が苦手だったのだけど、なぜか猫にはよく好かれた。そんな星にとって、猫にこんなに敵意のある感情を向けられたのは、今が生まれて初めてのことだった。
敵意、敵。
あなたは私のことを敵だと思っているの?
「私があなたのことを拒絶してしまったから、怒っているの?」
星は足に力をためる。スニーカーの先が石ころの中に食い込んで、その下の大地に食らいつく。