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『ねえ? どうするの?』
星は覚悟を決めると肩にかけていたボストンバックを河原の上に置いた。
「わかったわ。とりあえず、なんとか捕まえてみる」
『お? さすがだね。頑張って』
星はそんな魚の茶化すような言葉を無視して、先ほどと同じようにじりじりと青猫に近づいていく。その腰は引けており、顔も引きつってはいるが、星はどうやら本気で青猫を捕まえる決心をしたようだ。
魚はたぶん、半分くらいは私への嫌がらせのつもりで言っているんだろうけど、その言葉は本質を突いている。私は猫が苦手だし、できれば一生猫とは関わらないで生きてきたいと思っているけど、青猫は澄くんの友達なんだ。
星に自分の友達である青猫のことを話していたときの澄くんは本当に嬉しそうだった。今思えば、青猫が役に立つから連れてきたっていう澄くんの言葉に嘘はないんだろうけど、それ以上に自分の友達である青猫を星に紹介したいという気持ちのほうが、もしかしたら強かったのではないだろうか?
そんなことを星は頭の中で考えている。
もし、私ならどうするだろう?
私の大切な友達。山田海。海のことを澄くんに紹介したい。いろんなことを澄くんに話したい。澄くんなら何時間でも私の話を聞いてくれるだろう。いかに海が素晴らしい人間なのかを、あの優しい笑顔のまま、ずっと、ずっと聞いてくれるはずだ。
星と青猫の距離が一メートルくらいに近づくと、さっきと同じように青猫は星のことを威嚇した。星は青猫が威嚇するだろうと予測していたのにも関わらず、それに驚いて数歩だけ後方に下がった。
『君、本当に猫だめなんだね』
「そうよ。どう? これで満足した?」