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447 カーテンコール 君のこと、……大好きだよ。

 宇宙の音


 私はあなたを忘れない。


 遠く、離れた場所で。


 君を探しに行く物語。


 私がスウと初めて出会ったのは、小学校の高学年生(五、六年生)ころだった。そのころ、私の住んでいる街に引越しをしてきたスウは、そのころから『完成された、しっかりとした輪郭を持った美しい形』をしていた。(つまり、もう完成していたのだ)

 性格も明るくて、素直で優しいスウはすぐにみんなの人気者になった。みんながスウのいうことなら、なんでも信用したし、素直にいうことを聞いてくれた。(無理して、頑張ってみんなを説得しながら、教室をまとめようとしていた私とは大違いだった)

 そんなスウとは違い、私は『歪んだ、醜くて安定しない、とてもいびつな形』をしていた。

 スウと出会うまでは、そんなこと思ったり考えたりしたこともなかったけど、スウと出会ったあとでは、私には(心が痛いくらいに)それがよくわかった。

 スウははっきりとした光の中にいた。そして私は、そんなスウを照らし出す星の光の外側にある暗い闇の世界の中にいたのだった。

 そんな私とも、スウはちゃんと友達になってくれた。(教室の全員と、スウは友達になろうとしていたからだけど)

 私はスウと友達になれて、すごく、すごく嬉しかった。

 私たちはスウを中心として小学校の高学年時代の二年間を過ごして、それから私たちは小学校を笑顔で卒業して、中学生になった。

 私はスウと同じ中学校に入学した。

 スウは中学生になっても、ずっと人気者のままだった。すでに未成熟な子供とは思えないような完成された形を持っていたスウは、(私は相変わらず、いびつな形をしたままだったけど)中学生のある時期からモデルの仕事をするようになった。(スウはモデルとしても、私の予想通りにすぐにみんなの人気者になった)

 私はスウはこれからプロのモデルさんとして、将来を生きていくのだと思っていたのだけど、スウは中学校の卒業と同時に、モデルの仕事をやめてしまった。(理由はよくわからない。珍しくスウは私が、「どうして?」と理由を聞いても困った顔をするだけで本当の理由を私に話してくれなかった)

 私とスウは同じ高校に進学した。このころ、小学校時代からずっとスウと一緒にいるのは私と、それからもう一人のなにを考えているのか、昔からずっとわからない、いうなれば『決まった形や輪郭を持たない、透明で空気みたいな無形(形を持たない)』の変わりものの男の子だけになっていた。(ほかのみんなはスウの明るい光に耐えられずに、どこか違う場所に旅立って行ってしまった)

「私、高校で演劇をやることにしたんだ。あなたも一緒にやらない?」

「演劇? 私が?」

 スウに教室でもうずいぶんと昔のことを思い出しながらぼんやりと窓の外を眺めていた私は、スウにそう言われてすごくびっくりした。

 なぜなら歪んだ、醜くて安定しない、とてもいびつな形をしている私にとって、演劇とは、(あるいは人前で目立つような、大勢の人たちに注目されるような行為をすることは)誰かの形を真似るお芝居をすることは、この人生において、永遠にない(絶対にない)と思っていたことだったからだった。


 カーテンコール


 月の光


 ……お願い。消えないで。


 君の嘘と本当のこと


 世界は、私に嘘をつく。

 周りのみんなも、私に嘘をつく。

 だから、……私も、あなたにいつかきっと、嘘をつく。


 ……真っ暗な夜だね。(小さな声で、耳元で囁くように)


 劇中歌


 真夜中の森の中で会いましょう。

 真っ暗な森で会いましょう。

 出会ったら、手をとりましょう。

 そして、永遠に一緒にいましょう。


 駅前にある喫茶店『ほしぞら』


 君のこと、……大好きだよ。


 ……ねえ、知ってる、星。

 私ね、あなたにずっと救われてきたんだよ。本当に、本当にたくさん救われてきたんだよ。あなたはきっと気がついていないとおもけどね、私、あなたと友達になれて、あなたと出会えて、本当に、本当によかったって、そう思っているんだよ。

 二人で一緒にコーヒーを飲みながら、海は自分の前の席に座っている星を見て、そんなことを心の中で思っていた。

 私は弱いの。あなたが思っているほど、強い人間じゃないんだよ。本当だよ。全然弱い。すごく弱虫なの。夜になるとね、よくないちゃうんだ。星には内緒にしているけどさ、毎晩のように私、泣いているの。変でしょ? まるで、小さな子供みたい。……ううん。違うな。私は本当に『小さな子供のまま』なんだ。(きっとね)

 体は大きくなったけど、きっと心は小さいころのままなんだよ。星。あなたと出会ったときと同じくらいのとき。あのときからきっと、私の成長は止まっているんだと思う。

 ……だめだめだね。私は。

「海、今、なに考えているの?」

 にっこりと笑って、めがねの奥から、本当に迷いのないまっすぐな瞳で、海のことを見ている星が、コーヒーカップを両手で持ちながらそう言った。

 その笑顔は本当に、ただ眩しかった。


 水のそこにある星空


 綺麗。本当に綺麗だね。

 ありがとう。……本当に、……どうもありがとう。


 今、星は真っ暗な世界の中にいた。そんな見知らぬ不思議な世界の中で不思議な相棒パートナーと一緒に旅をしていた。(それはいなくなった海を探す旅だった)


 星は最近、夢を見た。

 本当にずいぶんと昔の夢だった。

 もう思い出すこともないと思っていた、あの当時の、……昔のことを、最近急に思い出した。ちょっとだけ胸が、心が痛くなった。

(それは、もうあまり思い出したくないと思っていた、孤独な子供時代の思い出だった)

 本田星は空を見上げる。

 そこには月があった。

 大きな、真っ白な色をした、とても綺麗な月があった。

 その月を見て、星はいつものように『自分の失った人の、大きさ』を思い出した。(思わずちょっとだけ泣いてしまいそうになる)

 ……いけない。いけない。こんなんじゃだめだよ。今は泣いている場合じゃないんだからね。よし。いけるよね。私。 

 わざとにっこりと笑って、そんなことを星は思う。

 本田星は今、真っ暗な夜の中にいる。

 ……自分の失ったものを、取り戻すために。

 そのために私は、この真っ暗な夜の中に足を踏み入れたんだ。

 自分の親友である山田海を救うために。

 ……星の最愛の人である、また星を救ってくれたた命の恩人でもある(海はそうは思っていないと思うけど)海を、今度は自分自身が助けるために。 

 星は、今、あなたのもとに向かって全速力で駆け出していく。(そのための命だと思った。海からもらった、……たくさんの愛なのだと思った)体が動く。勇気がある。愛がある。だから私はなんだってできると思った。(きっと、世界だって救える。海が私の世界を救ってくれたように……)

 そして、月が、真っ暗な世界の中に輝く美しい星空の光が、星の行く道を星がくらい夜の中で迷子にならないように、ずっと、その明るい光で照らし出してくれていた。 

 白い月と綺麗な星空を見て、星は思わずにっこりと笑った。

 ……海、待ってて!! 今私が、必ずあなたのことを助けに行くからね!!

 バランスのとれた綺麗な姿(あるいは形)で大地の上を走りながら、星はそんなことを心の中で叫んでいた。

 星のいる世界に冷たい雨が降り出したのは、それからすぐのことだった。

 さっきまで見えていた白い月も、美しい星空も急にどこにも消えてしまったかのようにして見えなくなった。(やっぱり、この世界は意地悪だった。まあ別にいいけど……)

『いいかい。よく聞いて。これはとても大切なことだからね。君が世界を諦めたら本当に君の世界は終わってしまうよ。だから急に突然の雨が降ってきたくらいのことで、君は自分の世界を諦めたりしたらだめだよ』と、そんなことを暗い闇の中から魚は言った。

「そんなこと、あなたに言われなくてもわかっているわよ」と雨の中を走りながら本田星は自分のパートナーである(口うるさい、おしゃべりな)黒い魚に、少しだけ意地悪な口調で(笑いながら)そう言った。


 幸せを見つける


 ……幸せって、なんだっけ? (もう、忘れちゃった)


 大きなビルの立ち並ぶ都心に、たくさんの雪が降っている。

 ……とても、とても冷たい雪だ。

 その雪の中で、大きな駅のホームの上に、二人の同じ高校の制服をきた(コートは黄色と青で、違う色のダッフルコートだけど、マフラーは二人とも同じものに見えるふかふかの白いマフラーを巻いていた)とても仲の良さそうな少女が二人、にっこりと笑っている。

 しばらくして、大勢の人たちがいる駅のホームに電車がやってくる。緑色の快速電車だ。

 たくさんの人たちが緑色の電車の中から降りてきて、またたくさんの人たちが同じようにホームの上から緑色の電車の中に吸い込まれるようにして乗っていく。

 でも、二人の高校の制服を着た少女たちは移動をしない。

 やってきた緑色の電車に乗らずに(まるで水の流れに逆らうようにして)ただ、ホームの上の同じ場所にい続けていた。

 動き続ける人の波の中で、まるで二人の高校の制服を着た少女たちのいる場所だけが、時間が止まっている(あるいは違う世界にいる)ように見えた。

 やがて、動き出した二人は誰も人がいなくなったホームを出て、大きな駅を抜け出して、その近くにある小さな喫茶店に移動をする。

 その喫茶店までの短い道のりを二人は、そんな真っ白な雪の降る、真っ白な色に染まる世界の中を、笑顔で、ゆっくりと歩いて移動をしていく。


 横断歩道の赤信号で立ち止まったときに、「ねえ、星。あなた今、幸せ?」と海は言う。

「もちろん! すっごく幸せだよ! だって海がこうして、私とずっと一緒にいてくれるんだから」と、本当に幸せそうな顔をして、にっこりと笑って頭の上に少し雪の積もっている、ツインテールの髪型をした星は言った。

 その星の言葉を聞いて、海はただ小さく微笑むだけで、なにも言葉を返さなかった。

 ……そっか。と信号が青に変わったときに、心の中で海は言った。

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