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『ねえ、ちょっといいかな?』
星のことを見かねたのか、いつの間にか戻ってきていた魚が、星にそう声をかけた。
「なに? 私今忙しいの。たいした用じゃないならあとにして」
星には魚に構っている余裕はないようだ。
『僕、思うんだけどさ、あの猫、もしかして足を怪我してるんじゃないかな?』
「え?」
星は魚の忠告を聞いてはっとなる。
「どうしてそう思うの?」
『さっき、君が近づいたとき、あの猫威嚇したでしょ? そのとき、後ろの右足だけ、なんか変な感じだったんだよ』
魚はそう言っているが、星はそんなことまったく気がつかなかった。猫を直視するなんてことは星にはきっと一生できないことなのだ。
『動かないんじゃないくて、きっと動けないんだよ』
「なるほど。そうなんだ。じゃあ、話は簡単ね」
『どうするの?』
「決まってるじゃない。そぉっと、横を通り抜けるのよ」星はそれ以外の選択肢があるのかと言わんばかりに言い切った。青猫がここから動かないなら、なんの問題もない。とりあえず小川を渡ってしまって、向こう側で澄くんを探しながら、青猫のいる大きな岩を遠くから監視していればいい。
『助けてあげないの?』しかし、魚はそんな星の選択にあまり納得がいっていないらしく、星にそう問いかけた。
「え?」
『だってあの猫は澄の友達なんでしょ? それで澄は星の『大切な友達』だよね? その『大切な友達の友達』が怪我をしているんだよ? なのに放っておいて先に進んじゃうの? あとで澄と合流したときに、ねえ、星、青猫どこかで見なかった? とか聞かれたら、君はなんて澄に答えるつもりなのかな? とか疑問に思ってさ』
こいつ、むかつく。
どうやら魚はなんだかんだ言って、星が魚の忠告を無視して暗い森の中に青猫と澄くんを追いかけて行ったことを、未だに根に持っているようだ。