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幸いなことに気がつくのが早かったので、十分な距離がある。石灰色の岩の中で青猫の青色の毛並みはかなり目立っている。青色の夜の中にいられたら星は青猫の存在に気がつかなかったかもしれない。
しかし不安なこともある。まず星は今、大きな荷物を抱えている。肩に担いでいるボストンバックのことだ。しかも時間帯は夜。星の輝く明るい夜だとは言っても、青猫の毛並みは青色の夜と同化する。足元は白いスニーカーだが、地面は河原だ。星には河原の上を走った経験はない。足元が普通のコンクリートか土の地面だったら青猫を捕まえるにしても逃げるにしても自信はあるが、ここでは限界がある。
……もう! 澄くんはどうして近くにいないの? あなたが追っていった青猫はここにいるのよ? こう、都合よくこのタイミングでヒーローみたいに私を助けに来てはくれないの? ねえ? どうなのよ?
そんなことをいくら考えても、都合よく澄くんは来てくれない。
しばらくそのまま牽制し合う星と青猫。しかし、手詰まりになっている星はともかく、なぜか青猫もずっと動かない。どうしてだろう? 星はようやくそのことを不審に思い始めた。
星は先ほどよりも、もっと注意して青猫の姿を観察してみる。
とくに変わった様子はないように思えるが、少し距離が遠すぎる。星は恐る恐る、青猫との距離を詰めていった。
青猫は逃げない。
星はさらに距離を詰める。
それでも、青猫は動かない。
そうして、星と青猫の距離が一メートルくらいに近づいたとき、青猫は不意にその姿勢を変えて、毛を逆立て、尻尾を立てて星のことを威嚇した。
「きゃ!」
短い悲鳴をあげて、星は後方に飛び退く。危なく星はボストンバックを肩から落としてしまいそうになる。その情けない格好の星を見て、バックなんてとりあえず河原の上に置いておけばいいのに、と闇の中で魚は思う。
星はすぐにでも逃げられるよう姿勢を低くして、青猫の次の行動を見守っていたが、青猫は星が後方に飛び一定の距離をとると、威嚇を止め、また岩の上に座り込んで動かなくなっただけだった。
「もう、いったいなんなのよ? 私への嫌がらせなの?」