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 秋


 人生は不思議なものだと思う。

 急に私が、病気にかかって病院に入院することもあるかと思えば、絶対に友達になってやるもんか、と思っていた人とすごく仲の良い友達になったりする。

 本当に人生は不思議なものだな、と思う。

 全然、先が読めない。

(……もっと、こんな人生を楽しみたかったな)

「なに、考えているの」

 珍しくすーくんがそう言った。

 夜の病院の廊下にある長椅子の上で、こうしてすーくんと友達になって、お話をするようになってから、いつも話をしているのは私だけで、すーくんは「うん」とか、「そう」とかいうだけで、全然自分の話もせずに私の話を聞いているだけだった。(でも私は、私の話をすーくんがこうしてしっかりと聞いてくれるだけで、なんだかすごく楽しかった。私が消えてしまったあとも、もしかしたら私のことをすーくんが覚えていてくれるかもしれないから……)

「人生のこと。人生って不思議だなって、そう思ったの」

 にっこりと笑って私は言う。

「そうなんだ」

 小さく笑って、すーくんは言った。

 私はすーくんになんだか負けたくなくて、夜にすーくんとこの場所(長椅子の上)で会ってから、毎晩のように、病室を抜け出して、この場所にやってきて、すーくんの孤独な一人の夜の邪魔をした。

 そんなことをしているうちに私たちは自然と友達になった。(と言うか私が強引にすーくんと友達になったのだ。すーくんは私のことを友達と思っているかどうかはわからないけど、こうして、この場所にいることを許してくれて、こうして私と話をしてくれているのだから、私たちはもう友達でいいのだと思う)

「ねえ、すーくん」

「なに?」

 すーくんは言う。

 すーくんは今日は月明かりを見ていない。

 なぜなら今日は雨の日で、病院の外では雨が降っていて、月が出ていないからだった。(降り続いている雨の音はずっと聞こえている)

 病院の通路は真っ暗なままだった。(真っ白なカーテンはすーくんがいつものように開けていた。そこからは暗い夜に降る雨の風景がうっすらと見えた)

「……もしよかったら、今日は私の話だけじゃなくてさ、すーくんの話、聞きたいな」すーくんの顔を見て私は言う。

 すーくんはいつものように無表情。でも、前みたいに幽霊みたいだ、とは思わない。

 すーくんはすーくんだった。

 ……生きている、一人のきちんと生きている、私と同い年の十三歳の男の子だった。

 夜と月明かりと静かな孤独を愛している、ちょっと変わった、私と同じようになにかの重い病気で病院に入院している、……きっと、命を失いかけている、中学一年生の男の子だった。(だから私たちは友達になれたのだ。きっと)

 すーくんはゆっくりと顔を動かして私を見た。

 でも、口は閉じたまま。

 どうやら、すーくんは自分のことを私にはまだ、話してくれないみたいだった。(残念。私には、もうそんなに時間はないんだけどな……)

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