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 次に私がすーくんと出会ったのは、真っ暗な病院の通路にある長椅子の上だった。

 私は一人、自分の病室を抜け出して、そこにある長椅子の上に座って、じっと、一人で泣いていた。

 ……ずっと、ずっと泣いていた。

 そこに、なぜかすーくんがやってきた。

 すーくんは真っ暗な(消灯時間は過ぎていた)病院の通路を歩いて、私のいるところまでやってきた。

 私は、泣いていたから、最初、すーくんには気がつかなかったのだけど、すーくんはゆっくりと真っ暗な通路にある窓のカーテンを開けたようで、そこから夜空に輝く月の光が、真っ暗な病院の通路の中に差し込んできたので、私はそこにすーくんがいるということに気がついた。

 私が「あなたは、……この間の」と言って、すーくんの姿を見て、少し前に一度だけ会ったことのあるすーくんのことを、このとき久しぶりに思い出した。(それまでずっと、すーくんのことは忘れていた)

 すーくんは相変わらず幽霊みたいにぼんやりしていて、言葉を喋らなくて、月の光の中にいて、そこからじっと私のことを見つめていた。(今度はすーくんは私のことを、無視したりないで、きちんと見つけてくれたみたいだった)

「あの、これは、違うの。えっとね」

 と私は涙をぬぐいながらすーくんに言った。

 まだ名前も知らない(このときは私はすーくんのことを、大葉すーくんという名前の男の子だと知らなかった)、病院で一度会ったことがあるだけの同い年くらいに見える、見知らぬ暗い男の子に向かって、私は言い訳をする必要なんてなかったのだけど、私は私の家族にいつもしているように、このとき、すーくんにも言い訳をした。

「別に悲しくて泣いているわけじゃないのよ。ちょっとだけ、なんていうのかな、少しだけ、自分の家が恋しくなっちゃってさ、それでちょっとだけ、悲しい気持ちになってただけなの。私、病院に入院するのって初めてだし、病気になるのも、初めてなんだ。それでついね。本当に、つい、ちょっとだけ泣いちゃっただけなの」と私は言った。

 すーくんは私のそんな必死の言い訳も聞こえなかったように、じっと私の顔を見ていた。

 それからすーくんは月明かりの中から移動をして、私の横にちょこんと(少し距離をおいて)座った。

「……ここ、僕の場所なんだ」

 すーくんは少しだけ私の顔を見て、そう言った。

 それからすーくんはずっと黙っていた。

 ずっと、黙って通路に差し込む月の光だけを見ていた。

 私は、……あ、そういうことか。夜にこっそりと病室を抜け出してこの場所に来るのは、僕のほうが先だから君は邪魔だよ、って言いたいわけね。あ、そう。そういうことか。ふーん。いじわる。

 私は思う。

 じゃあ、絶対にここから出て行ってあげない。

 私は、意地でもこの場所から移動してやるものか、と思った。

 そして、その思い通りに私はその夜、すーくんが自分の病室に戻るまでずっとその長椅子の上に座っていた。

 それはたぶん、時間にして一時間くらいだったと思う。

 その間、私はすーくんと一緒にずっと、病院の真っ暗な通路い差し込むきらきらと光る白い月の光だけを見ていた。(その月の光は、とても、とても綺麗だった)

 ふと横を見ると、すーくんは、その月の光を見て、にっこりと笑っていた。(私はそんなすーくんを見て、……変なやつ、と思った)

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