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河原を歩き続ける星は小川の少し手前で、その足を急に止めた。
なぜかというとそれは、星の視界の先、大きな石灰色の岩の上に青色の毛並みを持つ猫を見つけたからだ。見間違えるはずもない。あの猫は間違いなく青猫だ。
青猫は星のほうにその顔を向けている。緑色の青猫の瞳がじっと星の姿を凝視していた。星は少しだけ後ろにたじろいた。
星は青猫に警戒しつつ、周囲の河原を見渡してみた。青猫がここにいるということは、青猫を追っていった澄くんも星のすぐ近くにいるかもしれないと考えたからだ。しかし、そこには淡い青色に染まった河原が広かっているだけで、青猫を追いかけて行った葉山澄くんの姿はどこにも見えなかった。
『どうする? いちおう、捕まえる?』
魚が星に聞く。
「え? 捕まえるって、猫を私が?」
『ほかに誰がいるのさ?』
それはそうだけど、それちょっと無理っぽい。なぜなら星は猫が苦手でその体を触ることすらできないからだ。
星も青猫も、じりじりとにらみ合ったまま動かない。しかし、捕まえるにしても、先に進むにしても、星には青猫を無視するという選択肢はなかった。星の進もうとしている方向に青猫が陣取っているからだ。なによりも青猫のいるところに澄くんがやってくる可能性は高い。
それでも臆病な星は心の中で青猫がどこかに逃げないかな? と期待していたのだが、一向に青猫にはそこを動こうとする気配が見られない。
困った。
「魚。なにか良い案はないの?」星は魚に助けを求める。
『そんなこと言われても、ぼくにはどうしようもないよ。君がなんとかするしかないんじゃないの?』
魚はそんな言葉を残して、その気配を星の周囲から消した。どうやらまた、闇の中に潜ってしまったようだ。
薄情なやつめ。恨んでやるからな。
星は心の中で魚にそう文句を言ってから青猫に意識を集中させた。