表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

417/447

417

 その声は当時の、あの薺をいじめていた悪魔のような女の子の声、そのものだった。(薺はあの子の声を一生忘れることはないと思っていたし、実際に忘れていはいなかった)

 絶対にありえない声。現象。

 薺は思わず全速力で駆け出した。

 買ったばかりのビニールの傘を手放して、……真っ暗な夜の中を、……強い雨の中を、雨に濡れることも構わずに、白いサンダルのままで、駆け出していた。

 はぁ、はぁ、と息を吐きながら、薺は全速力で逃げ出した。

 闇の中を、土の道の上を、とにかく全速力で駆け出していった。

 でも、どれだけ全速力で走っても、その背後の気配は薺のあとにぴったりとくっついて離れることは絶対になかった。

 ……殺される。

 そう、薺は思った。

 パニック状態の薺は白いサンダルを脱いで、(それを急いで手に持って)裸足で道の上を走り始めた。足の裏がすごく痛かった。でも、そんなこと、もう気にしていはいられなかった。

 薺の耳には、思考には、……白瀬さん。と自分の名前を呼んだあの子の声が、まるで呪いのようにへばりついて離れなかった。

「……白瀬さん。待って。どこに行くの?」

 背後で、女の子が楽しそうな声で言った。

「……こっちへ来て。白瀬さん。そして、またあのころみたいに、一緒に遊びましょう。ね?」と女の子が薺に言った。

 薺は走った。

 全速力で走った。

 でも、どこまで走っても、闇は永遠と続いていて、光はどこにも見えなかった。

 ……助けて。

 やがて、薺は心の中で言った。

 助けて。森野くん。

 私を、……私を、この闇の中から連れ出して。

 あのときにのように。

 白瀬薺は闇の中で一つの光を見た。それは、森野芹という名前の光だった。

「森野くん!!」

 薺は叫んだ。

 すると、急に世界が明るくなった。

 はっとした薺が明かりに目を向けると、ぶぶー、ととても大きな警戒音がした。それは、道路を走っている大型のトラックのクラクションの音だった。

 その突然現れた巨大な眩しい光は、トラックの正面ライトの光だった。

 あ、と薺が思ったときには遅かった。

 がしゃん、と大きな音がした。

 そこで、薺の意識は、途絶えた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ