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空には月も星もなかった。
森が深くなると空も見えなくなった。木々はだんだんと高くなった。闇は深くなり、気温はどんどんと寒くなった。振り返るとそこにはもう闇しかなかった。咲はそのとても深い闇を見ながらもう私たちは一生この森の中から出ることはできないのではないかと思った。
静かで暗い場所。ここは夜の森の中ではなくて深くて冷たくて暗い海の底のようだと思った。
「なにか話でもするか」
ロープの先で仁くんが言った。いつの間にか私たちは言葉を失っていたようだった。
「私、お話ししてもいい?」
「いいよ。なんの話?」
「仁くん。あのね、笑わないで聞いてね。私は本当につい最近まで、自分のことを漫画やアニメやゲームの中に出てくるヒーローのようにおもってたんだ。私は物語の主人公なんだって、子供のころからずっとそう思ってた」
「占いの力があるからか?」仁くんは言う。
「うん。私にはお母さんから受け継いだお祓い棒と占いの力がある。それはみんなにはない私だけの力。だから私はその力でみんなを助けて幸せにする。そうやって生きていくのが、私の人生なんだって、運命なんだって、思ってた」
「間違ってないだろ。咲は小さな子供のときからずっとたくさんの人たちを助けてきた。ずっとそうしてきただろ。咲はヒーローだよ。ずっと見てきた俺が言うんだから間違いないよ」仁くんが言う。
そんな仁くんの言葉を聞いて咲は情けないことに泣き出してしまった。