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咲はひとつだけ仁くんに嘘をついていた。咲は文献の中からある一つの本を見つけていた。その本の中には今回の咲と同じような境遇に立った巫女の物語が描かれていた。
その物語を読んで咲は本当に昔、まだお母さんが生きていたころにとっても小さな咲にお話してくれた物語を思い出した。
占いの未来は変えることができる。行動によって。あるいは『巫女の命』によって。
変えることができる。回避することができるのだ。
心臓がどきどきしている。よかった。なんとかみんなを助けることはできそうだよ。でも、怖くないと言ったら嘘になる。苦しむわけじゃない。あっという間にいなくなるらしいから、痛いわけじゃないらしいかも、でも怖い。自分が消えてしまうってどう言うことなんだろう? みんなが私のことを忘れてしまうって、どう言うことなんだろう。お父さんも私のことを忘れちゃうのかな? ……仁くん。仁くんも私のことを忘れてしまうのかな? そんなことを考えていると泣いてしまった。(勝手に涙が出てきた)
もう。なに泣いてるの? これは希望なんだよ。よかったよ。みんな助かるんだよ。これでさ。方法がないよりはずっとましなことなんだよ。いやー。よかった。よかった。本当に……、本当によかった。(仁くん。君がこれからも生きることができて、本当によかった)