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美星は青色のシャツに白のロングスカートを履いている。足元は白い靴で手には白の大きな旅行鞄を持っている。
里は大きめの白のシャツにぶかぶかの黒のズボン。足元は裸足だった。
里が住んでいる家はとても古い木の作りの家で微かに木のいい匂いがした。掃除はとても行き届いていて、どこも綺麗だった。
玄関から家の中に入るとすぐに階段があって、その横の部屋がお茶の間になっていた。
その部屋の座布団に里に言われるがままに美星は座った。
里は美星のためにお茶を淹れてくれた。すごくいい香りのする緑茶だった。
「ありがとう」
「お茶くらいかまへんよ」里は笑顔で美星の前の座布団にテーブルを挟んで座った。
「久しぶりだね。十年ぶりかな? 里に会うの」
「もうそんなになるな。中学生の卒業式いらいかな? なつかしいな」里は言う。
「あっついな」里は汗をかいている。
「もう夏だもんね。この間まではようやく春だと思ってたのに、すぐに夏になっちゃた。時間が過ぎるのがすごく早くなった気がする」里の淹れてくれた冷たい緑茶を飲んでから美星は言った。
「美星は今までなにしてたん?」
「ずっと仕事してた」
背筋を伸ばしながら美星は言う。
「ずっと仕事か。まあお金は稼がなあかんし、ずっと寝てるわけにもいかんしな。しゃあないか」里は言う。
ちりんと風鈴が鳴った。
美星が音のしたほうに目をやると、開けっぱなしの縁側の屋根のところに風鈴が吊り下げられていた。
「気持ちいいね」
「まあ、山間の街やからな。風がよう吹いてる。海もすぐそこやしな」遠い空を見ながら里が言った。
「海。見たい」
「海。見に行こうか?」
「うん。見に行きたい」と素直に美星は笑顔でそう言った。