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「あなたが風を止めてくれたの?」星は言う。
『違うよ。僕じゃない。風は勝手にやんだんだよ。誰のおかげでもない。もちろん、君の力でもない』魚は言う。
星は闇の中の魚を見つめる。魚も闇の中から星のことを見返している。
『ねえ星。一つ聞いていいかな?』
魚が星に質問をしてきた。
「なに? 今ならなんでも答えてあげるよ」星は明るい声で魚に返答する。魚の忠告を無視して森の中に入っていったことを、星は少し悪かったと思っているのだ。
『どうして君は、そんなに自分に自信を持って生きることができるの? 不安になったり、怖くなったりはしないの?』
それは今までも何度か冗談交じりに魚が星に聞いたことがある質問だった。まあその度に星はその質問の答えをはぐらかしていたのだけど……。
おそらく星自身もはっきりとした答えは持っていないと魚は推測していたが、それでもその質問の答えを、曖昧な表現でもいいから、星本人から聞いてみたいと魚はずっと思っていたのだ。
「なんだ。そんなことか」
しかし魚の予想と違い、星はなに今更当たり前のことを聞いてるのよ、と言わんばかりの呆れた顔をする。
『そんなことって、君はその答えを知っているの?』
「当たり前でしょ? 自分のことなんだからさ」
『え? 本当に? それはいったいなんなの?』
魚は興味津々だった。そんな魚の声を聞いて、魚がこんなになにかに夢中になるなんて珍しいこともあるもんだなと星は心の中で思った。