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二人は周囲が森のようになっている風の街の駅までやってきた。森の中を歩いていくと白い小屋のような風の街の駅が見えてくる。駅の中に入るとそこはやっぱり誰もいなくて年老いた猫が一匹だけいた。猫はあくびをしている。
「駅長の猫さんだよ。名前は駅長さん」
葉ちゃんはそう言って駅長さんの頭をそっと撫でた。(なれているのか駅長さんは逃げたり驚いたりしなかった。とても気持ちよさそうな顔をしていた)
「猫の駅長さん」駅長さんを見ながら宝は言う。
すると駅長さんはじっとその緑色の瞳で、宝のことを見返したきた。
「ここはとても古い建物で築百年くらいの時間が経ってるんだ。でもすごくしっかりとした構造をしているから、危なくないし、内装も綺麗で、今見ても古くはあるけど、とても感動するような造形をしている人気の建物なんだよ」と葉ちゃんは言った。
「うん。わかるような気がする」と(駅の中を見渡しながら)宝は言った。
それから、宝も駅長さんのこと。撫でてみなよ。と葉ちゃんに言われて、噛まれるかな? と思いながら恐る恐る手を出してみると、駅長さんは甘えるように宝の手にその頬を当ててきた。
「よしよし」と言いながら宝は駅長さんの頭を撫でた。駅長さんは目を瞑り、そのまま気持ち良さそうにして横になり、眠ってしまった。
そんな駅長さんをみて、二人は声を出さないように気をつけてにっこりと笑った。
風の街の駅から出ると森を抜けたところに小さな建物があった。そこは風の街の交番だった。(ちゃんと風の街交番と看板に書いてあった)
でも遠くから見ても近くから見ても全然交番だとわからないような建物だった。交番の中もからっぽでおまわりさんはいなかった。
「この街は『安全』だからあまりおまわりさんの出番はないんだ。でももし『おとしもの』をしてしまったときは交番にきてみるといいかもしれない。誰かがおとしものを交番にとどけてくれているはずだから」と宝を見ながら葉ちゃんは言った。
駅の近くにはいくつかの家が点々として建っていた。それぞれの家の前までは駅の前から土色の道が伸びている。交番の反対側には郵便局があった。郵便局も遠くから見ても近くから見ても郵便局だとわからないような郵便局だった。(普通のお家みたいだった)
人の姿はどこにも見えない。それどころか動物の姿も駅長さんをのぞいてはどこにもみることができなかった。(そういえば鳥の鳴き声も聞こえないな、と宝は思った)
そんなのどかな街の風景を駅前から葉ちゃんと一緒に宝はぼんやりとしばらくの間、眺めていた。(空の青と大地の緑の色がとても鮮やかだった)
スカート姿の葉ちゃんと街を歩くのはすごく新鮮だった。(いつもは家の中でしかスカート姿の葉ちゃんとは会えなかった)
葉ちゃんはすごくどうどうとしていて、とても生き生きしていた。ずっと前からこうしてスカートをはいて、街の中を歩きたかったんだなってそんな思いが隣にいる宝に強く、強く伝わってきた。
宝もこんな風にスカート姿の葉ちゃんと一緒に街を歩きたいって思っていたから嬉しかった。土色の道を歩いていると休憩用のベンチがあったので、二人は少しそのベンチに座って休憩することにした。
葉ちゃんは家から麦で編んだバックと赤色の水筒を持って歩いていたのだけど、そのバックの中にはお弁当が入っていた。二人はそこでお弁当を食べることにした。
麦で編んだバックの中に入っていたのはサンドイッチだった。種類もたくさんあって、三角の形のものと四角い形のものが入っていた。
「宝はどれにする?」と食事用のうさぎのキャラクターの描かれているハンカチを広げながら葉ちゃんは言った。
「卵にする」と宝は言った。