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葉ちゃんは黙っている。私が口下手なのを知っていて、私がどんなことを話すのか、楽しみに待っているのだ。(相変わらずいじわるだ)
窓は空いている。(葉ちゃんが開けてくれた)
そのから(さっき吹いていた風とおんなじ)気持ちのいい風が部屋の中に吹き込んでいる。丸いテーブルの上にはテラスで飲んだ紅茶がある。宝は緊張をほぐすために紅茶を一口飲んだ。
「さっき食べたケーキ。すごくおいしかった」宝は言った。
「どうもありがとう。あのケーキは僕が作った手作りのケーキなんだよ」と葉ちゃんは言った。
葉ちゃんはすごく料理が大好きで、作ることも上手だった。
テラスでケーキを食べたときは感想を言うことができなかった。全然葉ちゃんとおしゃべりができなくて、ぱくぱくと目の前にあるケーキを(葉ちゃんが私がお腹が減っていたのかな? と勘違いするくらいに)食べてしまった。
葉ちゃんは案の定、くすっと笑って私の手を引いて「一緒にきて。家の中を案内するよ」と言って、私に葉ちゃんの家の中をいろいろ会話をしながら見せてくれた。(その間も、うん、とか、そうなんだ、とかくらいしか宝は言葉を話さなかった)