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その日、美波と二人で見た星は本当に綺麗だった。
お互いの顔がよく見えなくなるくらい、暗くなると文は美波と砂浜の上で手をつないだ。
二人の距離はもっと近くなって、美波は文に寄りかかるようにして、その軽い体をあずけてきた。
文は無言だった。
星は明るいけど、スケッチブックに書いた文字が見えるほどじゃなかった。
波の音が聞こえる。
鳥の声はいつの間にか聞こえなくなっていた。
文はこの風景を一生覚えていようと思った。
この星空を絵にして描いてみようと思った。
きっと描ける。
文は自分の心に火が灯るのを感じた。
とんとんと誰かが指で文の肩を優しく叩いた。
横を見るとそれは美波で、美波は文の手のひらに
帰ろう。
と自分の指で文字を書いた。
「そうだね。帰ろう」
と文は言った。
文は美波と一緒に立ち上がった。
砂を叩いて落としてから、二人は一緒に歩き始めた。
手をつなぎながら。
文は僕は一人じゃないと思った。
美波の家は海のすぐそばにあった。堤防に上がり、道路まで戻ってくると、街灯の灯りで美波の顔が見えるようになった。
おかなへった。
と美波は言った。
「僕も」
と笑いながら文は言った。