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するとそこにはとても大きな岩があった。岩の周辺は断層のような崖になっている。足元には落ち葉や木の枝ではなくて、大きな石が目立つようになった。真っ暗で気がつかなかったけれど、森はいつの間にかその姿を変化させていたようだ。
「!!」
星ははっと息を飲んだ。
びっくりした。その岩の前には小さな祠のようなものがあった。それは元は立派な祠だったのだろうけど、今はぼろぼろに朽ちてしまっていて、その原型をかろうじて止めているだけの祠だった。なぜこんなものがこんな道のない森の奥にあるのだろう? 星は疑問に思った。
星は祠の周囲を懐中電灯の明かりを動かして探索してみた。するとそこには祠と同じように朽ちてぼろぼろになった赤い鳥居があった。この場所はどうやら昔はきちんとした神社としての役割を果たしていた場所のようだ。
真っ暗闇の中で見る祠と鳥居はとても不気味なものだった。星の背後に『誰か』がいて、闇の中からその『誰か』が自分のことを見ているような気がする。星は一応、祠に頭を下げてから、再び懐中電灯の明かりを動かして周囲の地形を確認する。
すると大きな岩と祠のある崖の反対側は今まで星が歩いてきた暗闇よりもさらに深い、真っ暗で伽藍堂な空間が広がっていた。どうやらそこは谷のような地形になっているようだ。
空に星が見えないということは谷と言うよりも『巨大な穴』がそこには空いているのかもしれない。近くに断層の見える崖があるということは大きな地震かなにかで自然に発生した大地の亀裂のようなものだろうか?
もしその大きな穴に気がつかないまま星が足を進めていたら、今頃星はその穴の中に落っこちて行方不明になっていたことだろう。もしかしたらあの祠は、この穴がこの場所にあることを伝えるために建てられた祠なのかもしれない。穴の底からは冷たい風が吹き出している。なぜそんな場所から風が吹いてくるのか星には理解できなかったが、どうやら暗い森の中を吹いていた風はこの穴の中から発生していたようだ。
星は足元を照らしながら慎重にその穴の縁にまで移動する。星がそうして祠と鳥居のある大きな岩の横を通り抜けたとき、星は全身にひやりとした感覚を感じた。しかし星本人は周囲が闇で閉ざされているために、それが自分が祠と鳥居を通り過ぎたときに起こった現象だということには、気がつかなかった。一瞬、足を止めただけで星は移動を再開する。
その移動の途中、石ころが二、三個穴の中に落ちていく。星はそこから懐中電灯で闇の深さを確かめてみる。
しかし懐中電灯の明かりが穴の底にまで届かない。穴は星が思っていたよりも想像以上に深いようだ。
明かりは星の周辺の空間を照らし出すのが精一杯で、このとてつもなく深い暗闇の中が実際にどういう構造をしているのか、ここから把握することはできそうもなかった。
星は穴に落ちないように気をつけながら、反対側の崖に沿って移動を開始する。穴を通り過ぎたせいだろうか? 森の中を吹く風は途端にとても弱くなった。闇も幾分薄くなったような気がする。でもそれはただ単に星がこの闇に慣れてきたせいなのかもしれない。その証拠に星は独り言を言わなくなっている。




