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 星は懐中電灯の光を森の中に向ける。先は見えない。でも足元ならなんとか確認できる。

 星はそのまま森の中の暗闇に近づいていく。もう魚はなにも言わない。近くに魚がいる気配は感じるが、どうやらいつものように魚はだんまりを決め込むつもりのようだ。

「魚、返事をして」一応、最後の確認をしてみる。

 そう言ったあとで星はしばらく魚の返事を待っていたが魚はやっぱり返事をしてくれなかった。星は手に懐中電灯を持ちながら、その明かりだけを頼りにして、暗い森の中を歩き出す。その足取りに震えや不安はあるが迷いはない。星の視界は瞬く間に暗闇で覆われる。

 ……すごく怖い。想像以上だ。

 それでも星は足を止めない。懸命にその両足を交互に動かして前に、前に向かって突き進んでいく。

 思ったよりも、森の中は広かった。木々によって空は完全に遮られてしまって、星も月も見えなくなる。明かりは懐中電灯で照らされた足元の小さな丸い空間だけ。それは森の中というよりも、どこか暗い洞窟の中にでも迷い込んでしまったかのようだった。

 奥から風が吹いてくる。森の中に吹く向かい風。この風はいったいどこから吹いてくるのだろう?

 星はその風を道標にして、どんどん森の中を奥に進んで行く。落ち葉や木の枝や石ころで埋まった地面の上を歩いているので、足元が滑って危なっかしい。星が体のバランスを崩すたびに、懐中電灯の明かりが上下左右に揺れ動く。

「澄くん、大丈夫かな? ちゃんと青猫に追いつけたかな?」星は独り言を言う。周囲が真っ暗で心細いのだ。

 きっと大丈夫だよ。澄は君よりも随分とこの森に慣れ親しんでいるようだったし、今頃きっとあの君が背中を預けていた大木の辺りまで戻っていて、いなくなった君の姿でも必死で探してるんじゃないかな?

 星はそんな魚の少し意地悪な答えを空想する。

「無事でいてくれれば、いいんだけどな」

 星は他愛もない独り言をもう一度つぶやく。星の頭の中に意地悪な魚の返事は聞こえて来ない。

 ここまで歩いてくる途中、青猫の姿を見かけることはなかったし、暗闇の中に澄くんの姿を見ることもなかった。完全に私たちははぐれてしまった。まあ、私が澄くんの言葉を無視して動いたのが原因なんだけど……。

 どこかで再会できるといいけど、そのときはまず、私は澄くんに謝らなくちゃいけないだろう。

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