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 その輪廻の、私たちはもう友達だよね、という言葉に感動してくれたのか、林檎は「じゃあ、もう一日だけお泊りさせてもらおうかな?」と恥ずかしそうに顔を赤く染めてから、にっこりと笑って輪廻に言った。

「……うん。うん! そうしなよ。絶対にそうしたほうがいいよ!」と輪廻は少し涙ぐんだ顔でそう言った。

 輪廻は林檎がそう言ってくれてすごく嬉しかった。(できれば、林檎に抱きつきたいくらいだった)

「友達。友達か」

 その日の帰り道で、嬉しそうな声で林檎は言った。

「そうだよ。私たち、もう立派な友達だよ」と同じくらい嬉しそうな声で輪廻は言った。

 それから二人は輪廻の大きな十六階建ての白乳色をしたマンションに戻ってきた。それから昨日と同じように、お風呂に入ったり、おしゃべりをしたりして、(テレビは見なかったけど)それから久しぶりに部屋の電気をちゃんとつけて、そして、明日は学校がある月曜日ということもあって、昨日よりも少し早めに「おやすみなさい」をして、二人は(今日はちゃんとお揃いの真っ白なパジャマに着替えをして)就寝した。

 その日の夜。

 本当に輪廻は安心して熟睡していた。

 これから、明日になって、きっとすごくすごく幸せな毎日が私の(そして林檎の)ところにやってくるのだと思っていた。

 私は林檎と友達になって、……明日は昨日や今日みたいにはお泊りってわけにはいかないかもしれないけれど、私たちは友達になったのだから、連絡先を交換して、学校帰りや、お休みの日には、今日みたいに一緒にデートしたり、遊んだりして、そうやって、毎日のように笑って生活ができるのだと、この日の夜に輪廻は本当の本当に、そう信じて眠りについた。 

 ……でも、そんなに楽しい気分で眠ったはずなのに、その日に久しぶりに見た輪廻の夢は、あまり楽しい夢ではなかった。

 それは、『家族がばらばらになる』夢だった。

 不思議な夢だった。

 輪廻の家族は元からばらばらなのに、どうして今、このときにまた私たち家族はばらばらにならなければいけないのだろう? それはすごく理不尽だと思った。

 でも、しばらくして、あれ? おかしいな? と輪廻は思った。それは家族の数が輪廻の家族の数よりも、多かったからだった。(家や周囲の環境もどこか見覚えのないものだった)

 そして、しばらくして、輪廻は夢の中で鏡を見た。するとそこには見慣れた自分の、三枝輪廻の顔ではなくて、『二木林檎の顔』が写っていた。

 その林檎の悲しそうな顔を見て、やっと輪廻は、ああそうか、『この夢は私の夢ではなくて、きっと林檎の見ている夢なんだ』、ということに気がついた。

 一緒のベットで抱き合うようにして眠っていたせいなのか、いつの間にか、輪廻の意識は林檎の意識の中に、混ざり合うようにして、混入し、そのまま、林檎の見ている夢の中に、二木林檎本人として(似ているから勘違いをしてしまったように)三枝輪廻は迷い込んでしまったのだと、輪廻は思った。

 それから輪廻は、林檎として、「お姉ちゃん」「ねえ、お姉ちゃん」と優しい声で懐いてくれる蜜柑と檸檬の双子の男の子の兄弟の面倒を見ながら(二人の顔はすごく林檎に似ていた)、今頃、もしかして、私が林檎の夢を林檎の代わりに見ている(経験している)ように、林檎も、私が見るはずだった私の夢を、二木林檎としてではなく三枝輪廻として、見ている(経験している)のかな? とちょっと思って、輪廻はなんだかすごく恥ずかしくて、そしてなんだかすごく不安になった。

 ……できれば、ずっと一人で泣いている私のことを、友達の二木林檎にだけは、見られなくないな、と輪廻はちょっとだけ、そう思っていたからだった。

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