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「待って、澄くん!!」
「いいかい、絶対だからね!!」
澄くんの姿は暗い森の中に飲み込まれ、すぐにその姿は見えなくなってしまった。
「もう! この私がこんなところでおとなしく待ってるわけないでしょ! 澄くんったら、私のことなんもわかってないんだから」
星は澄くんの言葉を無視して、すぐに澄くんのあとを追いかけようとした。しかし、それを魚の声が遮る。
『だめだよ。澄の言う通りだ。勝手に動いたら、もう元の場所には戻ってこれなくなるよ』
「でも魚。この先に海がいるんだよ? なのにここでじっとなんてしてられないよ!」
星は必死だ。それに比べ魚はいつものように冷静沈着だった。
『森の中を見てみなよ。もうどこになにがあるか判断できないでしょ?』
星は魚に言われた通りに森を見る。暗い夜の中で森は静かに沈黙している。木々の隙間から見える世界の色は黒一色で、それ以外の色は見えない。
『土地勘のある澄ならともかく、君は今僕たちが歩いているこの『道』を見失ったらおしまいだよ。海を探すどころの話じゃない。君自身が消えてしまうことになるよ。それでもいいの?』
魚の言うことはわかる。でも……、それでも私は……。