29
「僕と青猫は友達なんだ」黙っている星の代わりに澄くんが話を続ける。
「友達?」
「うん。世界でただ一人の僕の友達さ」澄くんは青猫にそうだよね、と言った感じで顔向けるが、青猫はそっぽを向いてしまった。青猫はどうやら機嫌が悪いようだ。そしてそれは今の澄くんの発言を聞いた星も同じだった。
「あら? それってちょっと心外だわ」
星はとても不機嫌そうな顔をしている。澄くんにはその不機嫌さの理由がわからないようで、ちょっと困ったような顔をして、星のことを見つめている。
言葉を失った澄くんの代わりに、今度は星が会話を進めた。
「だってそうでしょ? 私と歩はもう友達だよね。青猫だけが友達だっていう澄くんの発言は、私のことをないがしろにしていると思うわ」
「友達? 僕と星が?」澄くんは自分と星を交互に指差しながら困惑する。
「そうよ。友達よ。文句あるの?」
星は両手を腰に当てて仁王立ちをすると、威嚇するように澄くんを睨みつけた。
「それともなに? 私が友達じゃ澄くんは不満なの?」
「え? いや、そんなことないよ。すごく光栄だよ」
澄くんは大げさにぶんぶんと手を振りながら答える。
「ふふ、そうでしょう、そうでしょう」
澄くんの言葉を聞いて星は満足そうにうなずいた。それからにこやかに笑って満面の笑顔を作る。すると澄くんはすごく納得したようで、とても嬉しそうな顔で星に微笑みを返してくれた。
「そうだね。僕たち、もう友達だよね」澄くんは照れくさそうに言う。
「うん。そうだよ。私たちはもう友達だよ。澄くんが違うって言っても、私は拒否するからね」星もそんな澄くんの顔を見て、とても満足そうな顔で何度も頷いた。本当は青猫が澄くんの肩の上にいなかったら、澄くんの肩を叩きたいくらい嬉しかった。
「そんなこと言わないよ。僕、星と友達になれてすごく嬉しいんだもの」
「私もよ。澄くんと友達になれて、すごく嬉しい」それは嘘でも演技でもない。星の本当の言葉だった。
澄くんが自分と友達になってくれたことが、星は本当に嬉しかったのだ。
森は暗いままだし、夜空には不吉な白い月が出たままになっているし、状況はなにも改善してはいないけど、こうして私は澄くんにも青猫にも会えた。前途は意外と明るいかもしれない。案外簡単に私は海と再会できるかもしれない。そう星が考えた矢先の出来事だった。
澄くんの肩の上にいた青猫が突然、地面の上に飛び降りた。その行動に星も澄くんもびっくりするが、青猫はそんな二人には構わずに、そのまま地面の上をすごい速度で駆け出して暗い森の中に飛び出して行ってしまった。
青猫の姿はすぐに見えなくなった。それと同時に澄くんが星に声をかける。
「星、悪いんだけど、ちょっとだけここで待っていて」
澄くんはそう言ったあとで消えていった青猫のあとを追いかけて行こうとした。
「待って澄くん! どこに行くつもりなの?」星は澄くんの服を掴んで澄を止める。
澄くんは振り返って星に笑いかける。
「いい、よく聞いて。星はここで僕の帰りを待っていて。僕は青猫と一緒にこの先に行ってみる。もしかしたらそこに海さんがいるかもしれないんだ」
「海? 海がこの先にいるの? なら、私も一緒に行くよ」星は言う。しかし、澄くんは首を横に振って星の提案を拒否する。
「だめだ。危ないよ。僕が行って海さんをここに連れてくる。だから星はここで待っていて。いい? 絶対に動いちゃだめだよ。森の中を歩くのは危険だ。下手したら、もう二度と森から出られなくなってしまうかもしれないからね。わかった? 絶対だよ」
そう言って澄くんは服を掴んでいた星の手をそっと離すと星の返答も聞かずに青猫を追いかけて森の中に飛び出して行ってしまった。