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「門番って危なくない?」
そのまま自然な動作で星は澄くんと会話を続ける。
「別に危なくないよ。門までたどり着く人はほとんどいないし、だから僕は一日中地面の上で寝っ転がってるだけだし、遊び相手なら青猫がいるしね。楽な仕事なんだ」澄くんはちらっと青猫を見て、そう言った。
「でも、たとえば動物が出るとかさ? 危ないこともいっぱいありそうじゃない?」
「動物?」
「うん。鹿とか、猿とか、熊とかさ」自分で言っておいて、星は急に不安になった。今二人が歩いてる場所も森の中なのだ。それもかなり深い場所。いくら季節が冬とはいえ、突然、動物が飛び出してきてもおかしくはない。
「それは大丈夫。さっき言ったでしょ。ここに敵はいないって。この森に動物は一匹も住んでいないんだ。もちろん、森の奥にもね」
「え? そうなの?」星は驚きの声をあげる。
「うん。そうだよ。実際に星も森に入ってから動物を見てないでしょ?」
確かに森に入ってから動物は見ていない。それどころか姿の見えない動物たちの鳴き声すらも聞こえてこない。あ、いや、違う。
「でも、青猫がいるじゃない?」星は青猫の存在を思い出した。
星は青猫を指差しながら澄くんにそう尋ねる。するといつの間にか青猫はその緑色の瞳を開いていて、それに気がついた星は指を噛まれるんじゃないかと思って、すぐに指を引っ込める。
「青猫は特別なんだ。なんせ青猫が僕をこの森に導いてくれたんだからね」
「青猫が?」星はまたも驚きの声をあげた。
星は自分と魚の関係を連想する。……似ている。私と魚の関係に。まさか澄くんも、私と同じように契約をしてこの森の中に足を踏み入れたのだろうか?
今すぐにでも魚に意見を聞いてみたいところだが、澄くんがそばにいるのでそれはできない。魚も沈黙していて、星になにも話しかけてこなかった。